0人が本棚に入れています
本棚に追加
・もっかい、うかぶ。
あれからまた幾日も経ち、俺とレンナとの距離は縮むでもなく広がるでもなく、ただただ月日は流れて――特別身構えていたわけでもなく、気づいたら、こうして中学卒業という日を迎えていた。
式が終わった後、両親や友人たちは「写真を撮らせろ!」と騒いだが、俺は「うるせー」と、それらをぜんぶ撥ね除けて、その足で、レンナの見送りをすべく、彼女のいる駅のホームへ向かった。
レンナの見送りをしたい、と言ったやつは俺以外にも大勢いた。――が、「うるせー、あいつが1番心を開いているのは俺だぞ多分」などとわあわあ言って、断固拒否した。
レンナとは、ふたりきりで逢いたかったのだ。
彼女は俺を見るなり、『来なくて良かったのに』と笑ったが、俺は、「うるせー」と言って、ベンチの真ん中に座る彼女を寄せて、その隣に腰を下ろした。
時刻を見ると、電車が到着するまでには、まだいくらかの時間があるようだった。
何をするでもなく、ゆっくりと流れる雲を眺める。
見ると、ホームには俺たち以外には誰もいなくて。――ただ、隣には彼女がいて。
それが、とても嬉しかった。
『……わたし、本気だったんだ』
ぼんやりと、彼女が言う。
本気で、人間になりたかったんだ、と。
それに対して、「なら、なれば良いだろ」とか、「そんな事あえて言わなくたって、レンナはもう、充分、人間だよ」――と言えたら、どんなに良かっただろう。
けれど、そんな事を言える資格も勇気も、今の俺は到底持ち合わせてなどいなかった。
そんなのは――あまりに、無責任だ。
『伯父さんはさ、最初から反対していたんだよね』
「レンナの伯父さん?」
『そう。……反対してたんだ、人間と暮らす事。「おまえには無理だー」って言ってさ。
『こっち側のセカイ』で生活している間も、毎日連絡ばかり来て』
「でも、『こっち』も、そんな嫌なセカイではなかったんだろ?」
『……うん』
レンナは、嬉しそうに目を細めた。
『――みんな、優しかった。優しくて、あたたかかった。毎日、本当に、楽しかった。
……でも。だからこそ、わたしは、みんなと一緒にはいられないって思った』
「……どうして」
『わたしは、やっぱり、みんなとは違うから』
彼女の顔が、ふちゃ、と曲がる。
そこから表情を読み取る事は出来なかったけれど。俺はレンナを、まっすぐに見つめた。
「……それでも俺は、レンナの事が好きだよ」
最初のコメントを投稿しよう!