・もっかい、うかぶ。

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・もっかい、うかぶ。

あれからまた幾日も経ち、俺とレンナとの距離は縮むでもなく広がるでもなく、ただただ月日は流れて――特別身構えていたわけでもなく、気づいたら、こうして中学卒業という日を迎えていた。 式が終わった後、両親や友人たちは「写真を撮らせろ!」と騒いだが、俺は「うるせー」と、それらをぜんぶ()ね除けて、その足で、レンナの見送りをすべく、彼女のいる駅のホームへ向かった。 レンナの見送りをしたい、と言ったやつは俺以外にも大勢いた。――が、「うるせー、あいつが1番心を開いているのは俺だぞ多分」などとわあわあ言って、断固拒否した。 レンナとは、ふたりきりで逢いたかったのだ。 彼女は俺を見るなり、『来なくて良かったのに』と笑ったが、俺は、「うるせー」と言って、ベンチの真ん中に座る彼女を寄せて、その隣に腰を下ろした。 時刻を見ると、電車が到着するまでには、まだいくらかの時間があるようだった。 何をするでもなく、ゆっくりと流れる雲を眺める。 見ると、ホームには俺たち以外には誰もいなくて。――ただ、隣には彼女がいて。 それが、とても嬉しかった。 『……わたし、本気だったんだ』 ぼんやりと、彼女が言う。 本気で、人間(ひと)になりたかったんだ、と。 それに対して、「なら、なれば良いだろ」とか、「そんな事あえて言わなくたって、レンナはもう、充分、人間(ひと)だよ」――と言えたら、どんなに良かっただろう。 けれど、そんな事を言える資格も勇気も、今の俺は到底持ち合わせてなどいなかった。 そんなのは――あまりに、無責任だ。 『伯父(おじ)さんはさ、最初から反対していたんだよね』 「レンナの伯父さん?」 『そう。……反対してたんだ、人間(ひと)と暮らす事。「おまえには無理だー」って言ってさ。 『こっち側のセカイ』で生活している間も、毎日連絡ばかり来て』 「でも、『こっち』も、そんな嫌なセカイではなかったんだろ?」 『……うん』 レンナは、嬉しそうに目を細めた。 『――みんな、優しかった。優しくて、あたたかかった。毎日、本当に、楽しかった。 ……でも。だからこそ、わたしは、みんなと一緒にはいられないって思った』 「……どうして」 『わたしは、やっぱり、みんなとは違うから』 彼女の顔が、ふちゃ、と曲がる。 そこから表情を読み取る事は出来なかったけれど。俺はレンナを、まっすぐに見つめた。 「……それでも俺は、レンナの事が好きだよ」
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