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長野県・某市某所……。
俺の父・陽二の実家は、リンゴ農園。
八月下旬から、徐々に始まるリンゴの収穫。
それに向けて農園は準備をしている。
初めに出荷されるのは、
『サンつがる』
現在、盆休み休園でも無袋で育てられる。
リンゴはたっぷり夏の光を浴びて、紅く紅く色づいている……。
毎年恒例で伯父の陽一は、年の離れた弟の陽二のために、その子ども達のために、その子どもの恋人や友達のために……、先に熟したものを用意しておいてくれてる。
父と伯父は独特のリンゴの切り方をする。
皮剥いて、普通ならまな板におき、食べやすく切り分け芯を取る…と言うのが普通だろう。
しかし、二人はリンゴの中心を人差し指と親指で持ち果物ナイフなどで一人分づつ、器用に芯を避けるように切り分ける。
「ほれ、慶司…今年も美味いぞ」
伯父と父はナイフの先に、ひとつ切り分けしたリンゴ刺してそのまま渡してくる。
「ワイルド過ぎる」
俺は、毎年そう思いつつも受け取り、ひと切れを食べる。
身が締まって…シャキ…と爽やかに、歯ごたえがあり、甘みが口いっぱいに広がって心地よく、香りも良い。
でも…どちらかと言うと、秋の方がもっともリンゴがうまいと思う。
出来ることならば、秋に来たいけど
ちょうど試合もシーズンに入る。
自動車あれば、日帰りで行けるか?
そう思うけど、長距離だ。
そう思うと毎年躊躇してしまう。
夏の光を浴びておいしくなるリンゴ
…食わしてやりたいなぁ…
なんだかんだとやはりうまいなぁ…
爽やかな味を楽しみながら、俺は遠く離れた場所にいる恋人を想った。
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