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「今回のいけにえはことさら美味そうじゃな……」
何やら怪しげな声とともに、美しい衣装をまとった男がやってきました。神々しさは無く、妖のような何かを感じます。
――長老!?
その顔は長老のものでした。そして、
「五平よ。働き者のキミは美しい、私の手で楽にしてあげよう」
いつもの優しい声ではなく、重く低い、しわがれた声で彼に語りかけてきました。
「そ、そんな……」
「冥土の土産に聞かせてやろう。ワシがこの村のヌシじゃ。この村のために犠牲になりたいと言う、お主の願いをしかと聞き受けたぞ。それからオサキ。まさかワシの滋養になってくれるとは思いもしなかったぞ、今年は良い年だわい」
言い終わると長老は、黒い大蛇へと姿を変え、五平とオサキに襲いかかりました。
「ふ、やはりね」
オサキがそう言うと、なんと彼女も白い大蛇へと姿を変えました。
「なんじゃと!?」
黒い大蛇は一瞬うろたえましたが、すぐに白い大蛇の方に向かって行きました。
突然始まった大蛇同士の戦いを、五平は黙って見ているしかありませんでした。やがて、形勢は長老ことヌシ様が有利になってきました。
「小娘にしてはやるわい。食事の前の運動にはちょうど良かったわ。しかしあの美味いメシが食えなくなるのは残念じゃがな」
「くっ……」
五平は先ほど受け取った青銅の短剣を手に取りました。こうなったらやるしか無いと覚悟を決め、長老めがけて短剣を投げました。
「ぐはは、なんじゃそれは」
短剣は見事長老に命中。しかし何の効果も無いように見えました。が……
「な、なんじゃ、身体が動かぬ……、一体何を!?」
「神の名において、貴殿を封印する!」
言うが早いか、白蛇が黒蛇を巻いたかと思うと、なんと両方の姿が消えてしまったのでした。
後には何も無かったかのような静けさだけが残り、五平はあっけに取られてしまいました。
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