11人が本棚に入れています
本棚に追加
私は今、一週間前のデートを追体験してる。
この一週間があまりにも長すぎて、
一週間前のデートが遠い彼方昔のような気がして、
すぐにはわからなかったけれど。
確かに一週間前のデートと同じ道筋を辿っていた。
それに。
ハルは、一週間前のあの日と、全く同じだった。
グレーのステンカラーコート。私がプレゼントした青いネクタイ。いつものベージュの暖かそうな手袋に、赤いマフラー。
右肩には愛用カメラのショルダーバッグ。
羨ましいほどはっきりした二重。すっきりした頬。
急いできたせいか、少し無精髭が滲んでいるのも。
一週間前のあの日と、全く同じだ。
これは夢かもしれないし、夢じゃないかもしれない。
でもこの際それはどうだって良かった。
観覧車がのんびりと下り始める。
指輪はハルがその指先で優しく嵌めてくれた。
とても嬉しい。とても嬉しい。だけど。
心の隙間を、なぜだろう、虚しさが吹き抜けていく。
予想がついてしまったんだ。
この物語には否応なしに、
遣る瀬無い結末が訪れる、と。
一週間前は、沢山後悔した。
でも今は。
観覧車がのこり四分の一に差し掛かって、
私たちは降りる準備を始めた。
ハルが、両手に手袋を嵌めようとする。
「ハル、待って」
私は思わず止めた。
「えっ、どうしたの」
「今夜は、手袋、いらない」
最初のコメントを投稿しよう!