弦月の夜

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私は今、一週間前のデートを追体験してる。 この一週間があまりにも長すぎて、 一週間前のデートが遠い彼方昔のような気がして、 すぐにはわからなかったけれど。 確かに一週間前のデートと同じ道筋を辿っていた。 それに。 ハルは、一週間前のあの日と、全く同じだった。 グレーのステンカラーコート。私がプレゼントした青いネクタイ。いつものベージュの暖かそうな手袋に、赤いマフラー。 右肩には愛用カメラのショルダーバッグ。 羨ましいほどはっきりした二重。すっきりした頬。 急いできたせいか、少し無精髭が滲んでいるのも。 一週間前のあの日と、全く同じだ。 これは夢かもしれないし、夢じゃないかもしれない。 でもこの際それはどうだって良かった。 観覧車がのんびりと下り始める。 指輪はハルがその指先で優しく嵌めてくれた。 とても嬉しい。とても嬉しい。だけど。 心の隙間を、なぜだろう、虚しさが吹き抜けていく。 予想がついてしまったんだ。 この物語には否応なしに、 遣る瀬無い結末が訪れる、と。 一週間前は、沢山後悔した。 でも今は。 観覧車がのこり四分の一に差し掛かって、 私たちは降りる準備を始めた。 ハルが、両手に手袋を嵌めようとする。 「ハル、待って」 私は思わず止めた。 「えっ、どうしたの」 「今夜は、手袋、いらない」
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