弦月の夜

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ハルはやおらマフラーを解いて、固まっている私の首に掛けてくれた。 私は言葉を失って呆然と立っていた。 「え、どうしたの、エミ?」 ハルは不安げにまた聞いてきた。 優しい声色が耳元をくすぐる。 思わず、 「何でいるの」 という言葉が口を付いて出てしまった。 「え、いや、だって今日の十七時ここって約束してたじゃん」 ハルはきょとんとした顔でそう言った。 「大丈夫?なにかあった?」 私はぶんぶん頭を振って、 「大丈夫」 と言った。 「じゃあ行こうか」 ハルはにっこり笑って、私の右手を取った。 私も、握り返した。 私は泣きそうになるのを何とか堪えて、 寒さでガチガチになってる振りをしながら、 手袋越しに仄かな温もりを感じて、 ハルの左側をくっついて行った。 きっと、夢を見ているんだ。 あまりにハルのことを想いすぎて。 夢を見ているんだ。 私はそんなことを思った。 でも、夢を見てるのなら、それでもいい。 どうか醒めないで。 せめてもう一回、ハルとデートさせて。 私はそう願った。
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