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わたし、神。
「人として産まれたのは十三回目――、ある時は聖女!ある時は魔法使い!切った張ったの大冒険を繰り広げてきたってわけです!」
「そうかい。そうかい。それは素敵なお話だねぇ~」
青空の下、カラカラと回る車輪に合わせ、痛む私のお尻と弾む会話。
水の町エリンへと向かう馬車後部で、私とおばあちゃんが揺られていた。
「それじゃあ、今回はどんな凄い力を持って生まれてきたんだい?」
「それが聞いてよおばあちゃん!なんとびっくり無能力!」
もう、三時間は揺られていただろうか。ぽかぽか日和とおっとりした相席者についつい事実をしゃべりすぎてしまう。
「いっぺん死んでやり直しも考えたんだけどね……痛いのは嫌だからやめといたんだ!」
「輪廻転生……夢のあるお話だね~。もし本当なら来世でじーさんにまた会えると嬉しいんだけど」
「会えるよおばーちゃん!!この能力無し才能無しのナナが保証したげる!」
どん!
と、それなりにある胸を張り、一丁前に叩いてみせる。
少し勢いをつけすぎたせいで、胸が痛い。
「元気なのは良いことだよナナちゃん。一緒にいるだけで元気がでるもの」
「どういたしまして!」
道中の会話はずっとこんな感じだった。
私が威勢よくわめき、おばあちゃんがなんでも肯定してくれる……なんと気持ちのいいことよ!
人生経験を積み重ねたからこそできる、熟練の受け流し術!
まぁ、過ごした時間だけで言えば、私の方が遥かに長いのだけれど。
「湖によるなら、このあたりで降りなナナちゃん」
御者のおじさんが振り向くことなく教えてくれる。
道中、私達の会話には口を挟むことのなかったおじさんだけれど、綺麗な木々や花々の解説、山の名前を教えてくれた。
寡黙だけれどサービス精神はたっぷりの素敵なおじさんは、降りるべき場所だってちゃんと教えてくれる。
「どーもどーも!ありがとうベラルさん!じゃあ私はここで降りるね!」
カラカラと道を進み続ける馬車からぴょんと飛び降りる。
わざわざ私一人を下すために、馬の脚を止めさせるのも申し訳ない。
地面に着地すると同時に、筋肉が伸びる感覚。
座りっぱなしだったお尻と太ももに馬車の木目がついてそうだ。
「面白いお伽話だったよ~!あとお腹を冷やさないようにね~!」
「おばあちゃんそれ三回目~!またどこかでね~!」
私がおへそ出しているのがよっぽど気になったんだろう。
夏でも冬でも、何度目でも。ヘソを出して暮しているので言われ慣れている。
今の私の服装は、丈の短いピンク色のスカートに、同じ色のブーツと手袋。
胸部は電大ナマズを素材に使った、ピッタリとした黒色の肌着に覆われている。
とっても軽装、とってもシンプルな服装で、肩・ヘソ・太ももは直接風を感じられる。
髪も肩上までしか伸ばしていないので、より軽快感があるかもしれない。
おじいさんとの初デートの場所、エリンにあるお魚料理店に向かうおばーちゃんに手を振る。
「へそ、出してないと調子悪くなるんだよね……何度転生しても」
軽く伸びをして全身に血をながした後、お腹をなにげなくさする。
自分でも理由はわからないが、ヘソを出してないと体調がよろしくない。
夏でも冬でも、朝でも夜でもだ。
(お伽話か――まぁ普通そう思うよね)
そう、だからこそ今まで人に話したことは余りなかった「一区切り」を超えた思い出話……。
ぽかぽか日和とおばあちゃんおそるべし――、と言ったところか。
ついつい「前」や「前の前」の話などに花を咲かせてしまった。
「神様なんだよね……私」
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