リップティント

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リップティント

 女子にいたずらで塗られたリップティントのせいで、唇がまだ赤い。なんだか変な感じだなと、鏡を見ながらペロリと唇を舐める。  マスクをして、待ち合わせ場所へ向かうとすでに今夜の相手は待っていた。学校ではもちろん、友人にも話していないけれど僕はそういうことをして、お金を稼いでいる。  行こうか、と父親ぐらいの男が僕の肩を優しくさすりながら、乗ってきた車の助手席のドアを開けてくれた。制服を押し込んだスクールバッグは後部座席に置いて、私服に着替えた僕が促されるがまま乗車してシートベルトをしめる。  かわいいね、困ったことがあるなら言いなさい。力になるから。とはいえ、君の態度次第だけれどね。  余計な一言を含めて、僕はうなずく。  どうせ、お金に困っているからだろうとこの人は思っているようだ。本当は、僕が好きだから、グチャグチャに汗や精液でよごされ、あられもない声を挙げて快感を味わうことが好きだから、なんて知らない。思わせておけばいい、と割り切っているけれど、期待を裏切ったみたいで、たまに心がヒリヒリする。  車が高速道路にはいり、夕景が見えて来る。都心に入るから、僕のマンションだから大丈夫だよと言われた。なにが大丈夫なのかは、わからない。汚いワンルームだったらすぐに帰るし、タワーマンションとかのきれいな部屋だったら、それはそれでラッキーだ。この前もらった代金が財布にまだ入っていて、手をつけていない一万円札が十枚は入っている。身体には触れないけれど、自慰だけ見せてほしいと赤い布団に寝かされ、じっと股間に顔を近づけられながら、なんども一人で扱かされた。見られることで興奮して、片方の手で扱きながら、乳首を弄んだ。爺さんだったから、自分じゃできないと謝られた。  そんな客は、結構知っている。自分じゃできないからと、もう一人男を雇って、僕とセックスさせて、その様子をじっと見ていた奴もいた。互いに興奮してきて、とめるタイミングがつかめなくて参ったこともある。    ついたよ、と運転席の男が、ガレージに車を停めた。ずっと俯いていたからわからなかったけれど、大きなガレージだし、停車されている車も高そうなものが多い。当たりかな、と僕は深く息を吐き出した。  ぐい、男の顔が近づく。シワが刻まれた目尻がいやらしく歪んで、濁った瞳が僕を見ていた。  顔をよく見せて、マスクを外して。  タバコの匂いがする息から、言われたままにするとリップティントがついた唇にごくり、と生唾を飲みこむ音が男の喉元から聞こえる。  ゆっくりと口を開き、舌をちろりと出す。誘ってみた僕のアクションに、相手は貪るように、侵略して来るように、舌を絡めてきた。 「あ、ふぁ、あっ……」 「はぁ、あ、ん……」  ニットの上から、指先でぐりぐりと乳首を刺激され、否が応でも下半身がゆるゆると反応して来る。  太腿をつうっとなぞり、敏感なところを目指す相手の手をそっと制して、唇を離す。 「ここじゃ、いやだ……」  熱っぽい声でささやくと、相手はサッと身を離して、ごめんと謝った。  別に車でも、本当は良かったけれど、どうせなら部屋のベッドのほうが窮屈な体制にならずに、グチャグチャにしてもらえる。シャワーも使えるんだから。  エレベーターの中で、相手はずっと、僕の腰や尻を撫でていた。  それだけで、僕は息が荒くなってきていた。  相手の名前は、正之といって、会社の役員だけども独り身で、今更寂しくなったのだそうだ。正之さんは、ようやく自分の名前が言えて、ホッとしていたようだった。よろしくね、光流くんと僕の名前をはにかみながら呼んでくれた。恥ずかしいような、嬉しいような、いつもとは違う不思議な気分になった。  ギシギシと、キングサイズのベッドが揺れる音と、僕と、正之さんの喘ぎ声だけが部屋を支配する。ひとり暮らしには広すぎる正之さんの部屋は対面型キッチンに大きなバスルーム、立派なソファのあるリビングにウォークインクローゼット、オーディオルームに寝室と家族で使ってもじゅうぶんな広さだ。ゴミだらけで、ワンルームマンションの部屋だったら帰っていたけれど、アロマのいい香りまでしていて、気を遣っていたんだなって嬉しくなった。 「あ、は、ああっ……正之さん、そこぉっ……!」  ぐちゃ、ぐちゅといやらしい音を立てて、正之さんの指が後ろを押し広げるように、ローションに塗れて入ってくる。わざと腰をくねらせ、足を開いたままイイところに導いてやる。もっと、もっと指だけじゃなくて、大きくて太いもので満たしてほしい、と望みながら。 「すごいね、光流くんは……ここが吸い付いてくる。胸も、感じているんだね……乳首がかわいい桃色から、赤く硬くなってきたよ?」  後ろを掻き回されながら、じゅう、じゅううううっと乳首を吸われ、甘噛みされる。どんなに相手をこなしても、この刺激には弱い。 「あああああぅっ!」 「こっちも硬くなって、いやらしい、かわいい子だ……」  掻き回されながら陰茎を扱かれ、背中がのけぞる。先端を口に含まれる、舌先でチロチロ弄られる感触に、視界が蕩けそうに気持ち良くなって、声が止まらない。 「ほら、だんだん柔らかくなってきた……」 「ん、うううっ……ね、ねえ、正之、さ……」  そろそろ、欲しい。  突き刺して、いやらしい音をたくさん聞かせて欲しい。  ねだろうとした僕の中に、正之さんがズブズブと根元まで、隙間を作るものかとも言いたげに侵入してきた。熱くて、ひくひく蠢いて、気持ち良くて、目の前がチカチカする。 「あーっ……すっごい、硬いよぅ……」 「はぁ……光流くんのここもぬるぬるで、トロトロだよ、動いていい?」  僕は正之さんの背中に腕をまわして、ささやいた。  いっぱい、動いて下さいと。  力任せに、正之さんが僕の中で暴れる。熱くて太いクサビでも打ち込まれるかのように、ぐちゃ、ぐちゅ、ぴちゃぴちゃ、ペチペチと。  腰に足を絡ませて、僕は「来て、来てぇ!」と懇願する。 「すっごくいやらしい顔だよ、光流くん……」 「もっと、もっとぉ……!奥に、たくさん、当ててぇ!」  陰茎がまるでひとつの生き物みたいに蹂躙し、僕の思考を真っ白にして、汗や精液、よだれにまみれた、卑しい顔にさせてくれる。  「ああ、いい、正之さん、気持ちいっ……」 「僕もだよ、光流くん……はあぁ、ああ、出そうだ……」 「出して、奥に、奥にいっぱいっ……あぁあああん……」 「ああ、もう、これ以上はっ……」  どくどくどく、どくどくと生温いものが僕の中に、注ぎ込まれる。  ずるり、と正之さんの陰茎が抜けて、コポコポ、クプクプと身体から溶け出してくるものが、シーツを汚した。    シャワーを浴びて、正之さんからお金を受け取り駅まで送ってもらう車の中で、僕は正之さんにそっと打診した。    また、会ってもらえますか?  今までで、うそじゃなく、一番気持ちよかったから。  正直、もっと欲しい、もっとしたい、抱いて欲しいと思わされたのは正之さんが初めてだった。  正之さんは驚いた顔で僕を見て、それから、嬉しそうに笑うと、またお金が貯まったらねと答えた。  僕は一呼吸置いて、こう答えた。    お金なんか、いらない。  ただ正之さんが、僕としたいときに呼んで。  ほかの人は、全員、さようならするから。  正之さんは嬉しそうな、困ったような顔をしていた。    じゅるる、じゅるる、ぐちゅぐちゅ。  ガレージに停めた車の中で、僕は運転席に向かってうずくまり、スマホを持って画面を見ているフリをしている正之さんの陰茎を口に含んで顔を上下に動かしたり、先端を口内でチロチロ舐めたり、唇でしめつけたりして刺激を与えた。唇には、リップティントを塗って。  「光流くん、もう、あとは……」  出そうだから、とおしのけようとする正之さんを制して、顔が唾と体液に塗れるまでしゃぶり続ける。  達した正之さんの精液は、わざと喉を鳴らして飲み込む。  苦くて塩辛い、なれない味なのに、正之さんのはぜんぶ舐めとっておきたいぐらい、愛しくてしかたない。  今日は、部屋でおもちゃでも使いませんか?  ねえ、正之さん。
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