オオカミ岩の物語

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姫の死を聞いて驚いた王が急いで数人の騎士を率いて森に向かうと、 従者の言う通り、 森の奥深くに大きなオオカミの横たわる姿が確認できました。 騎士の数名が急ぎ駆け寄ると、オオカミの少し手前でばたばたと倒れました。 「なにをしておる!姫を連れてまいれ!」 「何か様子がおかしいです。王はお待ちください!」 次の数名の騎士が走り寄ると、またばたばたと倒れます。 「なんと!悪魔の仕業(しわざ)か!」 騎士たちは仲間の元にじわじわとにじり寄ると、 その手の届くぎりぎりのところでこちら側に引き寄せました。 しばらくたつと、倒れていた騎士たちはふらふらと立ち上がりましたが 皆一様に真っ青な顔色になり、まともに歩けるものはいませんでした。 王はぎりぎりと唇をかみしめました。 暫く、山のように伏すオオカミの(しかばね)をにらみつけました。 「皆に告ぐ。」 王はようよう呼ばわりました。 「なんびとたりともこの場に立ち入ることはならぬ。 ここは王家の尊い血が流され、穢れた地となったのだ。 この時からこの地は悪魔の岩場と名付け、のちの世に伝うるがよい!」 王はもう一度悲痛な瞳をそのオオカミに向けました。 「引き上げい!」 王と騎士たちは(きびす)を返すと、馬にまたがり城に戻りました。 そののち何十年、何百年経っても、 その地に足を踏み入れられるものはありませんでした。 王が身罷(みまか)り、新たな王が再び現れても、 不思議とオオカミの周りには草木も生える事無く、 いかなる生き物も近づく事すらできませんでした。 やがてこの大きなオオカミの(むくろ)は、 岩と化し森の奥深く埋もれてしまいました。 ただ、オオカミと姫の悲しい伝説だけが、 夜ごとの子供たちのおとぎ話として語られるだけでした。 今でも美しき姫の亡骸(なきがら)は、亡くなった時のまま、 騎士たるオオカミに守られて その場所で国を守っていると伝えられています。
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