オオカミ岩の物語

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(りん)のような青白い炎の瞳が一閃(いっせん)すると、 音もなく隣の兵士が転がってゆく・・ その静かな殺戮者(さつりくしゃ)が駆け抜けたところには、無数のうめき声と 悲鳴とわめき声が地より沸き上がり、何も解らぬままに兵たちは 蜘蛛の子を散らすように逃げまどいました。 各要所の隊長たちの叱咤(しっせき)罵倒(ばとう)すらもかき消され 扇を広げるように松明(たいまつ)が消えて行きました。 その扇の真ん中の先端の部分、多くの味方に護られた敵の将は 簡易ながら豪華に仕立てられた陣の中で、 間近な勝利を祝い酒盛りの真っ最中。 銀の毛並みを血で(くれない)に染めたオオカミは、 真っ直ぐにその将に飛びかかり、砂糖菓子を崩すようにその首をかみ切ると、髪をくわえ敵陣を見渡しました。 「あ、悪魔だっ!」 将を打ち取られた家臣も騎士も、あまりの出来事に 散り散りに声を上げて逃げ惑いました。 銀オオカミは再び音もなく城壁を上り、王の足下にその首を降ろしました。 驚いたのは王も同様でした。 城を囲んでいた松明はもうすでに消え去り 敵兵たちのときの声もあがりません。 目の前の自分たちをさんざん苦しめた憎き敵の変わり果てた姿を見つめ 燃える瞳で自分を見つめるオオカミの血にまみれた顔を見つめ ようやく何が起きたのか悟りました。 「よくやった!忠義なるズィルバーンよ!お前には私の土地の半分を授け 一生食べるに困らぬようにはからおうぞ!」 ズィルバーンはぴくりとも動かず、王の顔を見つめ続けます。 「おや。」王はにこにこと笑いながら続けました。 「それでは不満か。では騎士の位と美しき城と、 我が家宝の宝石を与えようぞ。」 ズィルバーンはまだ王の顔を見つめています。 そのとき城の中より、王の年若い姫君があらわれました。
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