オオカミ岩の物語

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その声にまず顔をあげたのは、最後まで王の元近くに留まった年若い従者でした。 「わがすべてであられる王よ! ここで果てるべき定めと、今まで生きながらえておりました。 わが王のため、麗しき姫のため、この命果てるなら本望。 私が命に代えても姫をお連れ申し上げます!」 王はその従者のまだ子供のような顔を見つめました。 長きにわたる(いくさ)で、あちこちにうす汚れた布を傷に巻き付け 頬にも腕にも乾いた血がこびりついていました。 しかしその瞳はきらきらとまっすぐに王の目をとらえていました。 「姫と共にでないと戻ってくることはまかりならんぞ。」 王は低く命じました。 若者は低く目礼すると、矢筒を背負うと弓の弦をびんと鳴らしました。 そして姫と狼の消えた森へと消えてゆきました。
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