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姫は寒さで目を覚ましました。
自分が固い岩屋で横になっていることに気づき、薄いドレスをひっぱり
なんとか暖を取ろうとして、
その血に汚れた染みを見てすべて思い出しました。
視線を巡らせると、
岩屋の入り口をズィルバーンの大きな背が塞いでおりました。
姫は起き上がると、ズィルバーンの背に寄り添いました。
「ズィルバーン。」
大きなオオカミは首を巡らせて姫の目をみつめました。
「王たる父の名誉のため、わらわはそなたと共に暮らそうと思う。
だがズィルバーン。
わらわは亡き母上様にかけてこの身を穢すわけにはゆかぬ。
妻にはなれぬが、わらわの命が尽きるまでそなたと共に添うことを誓おう。」
ズィルバーンの青い目に浮かんだのは歓喜であったのか、悲しみであったのか
万華鏡のようにきらきらとその色を映すと、
首をたれて姫の手の甲をそっと舐めました。
姫がその大きな頭を撫でた、その時
岩屋の中に放たれた矢が、身をかがめたズィルバーンの背を超えて、
姫の胸に深々と刺さりました。
倒れこむ姫。
外からの悲鳴はほとんど同時でした。
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