オオカミ岩の物語

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「おおおおおっ!!!姫!姫がっ!私がっ!」 外から(まろ)びこんできたのは、かの若い従者でした。 ズィルバーンがその怒りで、八つ裂きにしてやるべく飛び掛かるその前に 姫の腕がズィルバーンにかかりました。 「ズィルバーン・・。ゆくな・・。これで・・いいのだ。」 我が臣下を・・殺すことは・・許さぬ・・・ぞ? すまない。ズィルバーン。たったこれだけしか・・共に生きられなくて。 ・・でも・・ずっと・・共に・・おるから・・な・・?」 「姫!姫!なんということをっ・・・!取り返しのつかぬことを・・私は・・っ!!」 泣きわめく従者をズィルバーンは片足で押さえつけ、 喉の奥でうなり声をあげましたが その首をかみ切ることなく、天に向かいひしり声をあげました。 それは安らかなベッドの中の者でさえも、 思わず起き上がりあたりを伺うような 血を振り絞るような慟哭(どうこく)でした。 動かなくなった姫を、ズィルバーンはやわらかく咥えると 森の奥の羊歯(しだ)の柔らかな地面にそっと降ろし、 その傍らに横たわりました。 ふらふらとよろめきながら従者も後をついてきていました。 「あいつの所為で・・姫は・・」 従者はズィルバーンの後ろから矢を放ちます。 「お前の所為で・・俺は姫を・・っ!」 持ってきただけの数十本の矢をすべてその大きな背に打ち込みました。 ズィルバーンはぴくりとも動きません。 恐る恐るそばに寄って確かめると、 大きオオカミはもうこと切れていました。 従者は打ち取った証拠にと首を落とそうとしましたが、 重くてできませんでした。 せめて姫の亡骸(なきがら)をとも思ったのですが、 大きなズィルバーンの上体がしっかり押さえこんでいて それも叶わず、従者は諦めて王の元に戻り報告しました。
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