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【第1章】新入社員 吉野
『ご期待に添えず申し訳ありませんでした』
誰の目にも美しく映るその女は、頭を下げながらそう言った。セミロングよりやや長いぐらいの栗色の髪の毛は陽に照らされキラキラと輝きを放ち、謝罪しているその姿さえも美しいと溜め息が漏れる。
『いいのよ、見た目しか取り柄のない貴女に期待なんてしてないから』
一つ縛りに結った真っ黒な髪の毛と黒縁メガネ、いわゆる典型的なお局様といった容姿の女は表情を変えることなくそう言うとその場を離れた。
『…何よアレ。ただの嫉妬じゃないの、吉野さん気にする事ないわよ』
美しさは正義なのだろうか、それともお局様の発言が非常識であり周りを敵に回しただけか、はたまた今回の事に限らずお局様自体が嫌われているのか…
吉野と呼ばれる女は困ったように眉を八の字にして『ありがとう』と言った。
これが10分前の話だ。
「てゆーかさぁ、あれは平岡課長を取られた腹いせでしょ」
「完全にそうだよね、課長と吉野さんが話してる時に聞き耳立ててるしさー」
「でもさ、課長って総務の…」
女子はこの手の話が大好物だ。誰が誰を好きで、誰と誰が付き合ってる。誰が誰に振られて誰と誰が不倫してる…。
人の不幸は蜜の味、幸せな話よりドロドロの話が大好き。他人事だから面白おかしく噂話ができるのだ。
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