ぐしゃら

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 どこから話したらいいのか、俺にもわからない。  だから、「俺が何を望んでいたか」から話す。 ―――俺はずっと眠りたかった。  誰にも邪魔されることなく、目が腐るほどに眠りたかった。それほどまでに、俺はずっと眠れずにいる。  理由は簡単。この体だからだ。  捨てられた魔法で生まれた俺は、生まれた時から人から蔑まれ理由のない暴力にさらされてきた。 『見ろ!ミノタウロスのディディだ!』 『見た目が悪いものは悪なり』  石を投げられ、水をかけられ、歩くたびに転ばされた。俺はずっと一人だった。  しかも、俺は成長するにつれ、見た目の醜悪さに磨きがかかるようになった。おかげで、今度は俺の姿を見たやつは大概、泣き叫びながら逃げまわるようになった。  軽蔑され、罵られ、謗られ、その果てに歪んだ俺の性格は極悪非道。残虐で、情け容赦は一切なし。泣く子も泣く暇などなく、首を落とされる。  いつしか。それが俺の生き方になった。  だが、やがて中には正義感を振りかざして、俺を退治しようとしたり、目障りな俺の寝首を掻こうとするものが現れはじめた。  その数は俺が、悪行を働き、名を上げれば上げるほどに増え、おちおち寝ている暇もなくなりはじめた。やがて、 ―――もっと俺の見た目が良かったら。  蔑まれて性格は歪めども、けして違う姿を望まなかった俺だが、ついにそう思うまでになった。  俺は疲れていたのだ。  せめて、もう少し、人のようであれば……もう少し、愛らしい要素があれば。生き方は違っていたのかもしれない。そう思うようになった。  その頃だった。俺があいつを見かけたのは。 ―――美の化身。  依頼された殺人を終え、依頼主と面会している時に彼女と出会った。 「美しいだろ? これでまだ16歳なんだぞ」  馨しいほどの色気を称えた彼女の腰を抱き寄せ、依頼主は自慢気にほくそ笑んだ。  高級そうな服に身を包み、髪を結いあげ、与えられた装飾品を身につけた彼女を見て、愕然とした。 ―――こうも生き方が違うものか。  俺はこの時に「運命」という言葉を理解した。  だから、俺は彼女になれた時は心底、嬉しかった。
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