第一章

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◇◇◇  これは、誰にも語られず、誰にも知られることがなかった真実の話。  少年は代々小さな土地を収める家系に生まれた。その容貌は、黒髪黒目と周囲と何ら変わらぬ特徴を持っていたが、大変美貌で聡明であった。故に誰からも愛された、人間からも神様からも。  少年は誰にでも手を差し伸べ、誰にでも優しく、誰にでも笑顔を向けた。  しかし、神様はそれが許せなかった。神様は少年を大変気に入っていたため、強い独占欲を露にし、高い矜持を振りかざした。 「私のみを愛し、私のみに尽くし、私のために生きるのならば、未来永劫にこの地は豊かであり、人々の生活は長きに渡り守られるであろう」  神様は少年が受諾することを当然としていたが、少年は即答で拒絶した。 「神様、申し訳ありません。私はこの地を収め、この地を守り、この地を永存させていかなくてはなりませんが、同時にこの地の人々を愛しているのです。生涯を共にすると誓った相手もおります。あなた様のみを愛し、あなた様のために生きることはできません」  神様は大層怒り狂い、少年に呪いをかけた。少年の美しい容貌を奪い、こう告げた。 「その呪いは、お前の血縁に至るまで蝕み、その者を孤独にし、深く苦しむであろう。呪を解く方法は、たった一つ。お前がその呪いに負けず、美しい心を失わなければ、その心に触れた者がお前の呪いを解く鍵となるだろう。一方的な愛では呪いは解けぬ。互いに愛を示さねば解くことは叶わぬ」  これは神様の身勝手な八つ当たりであり、失恋という名の怒りと悲しみを、嫌われることを承知で少年に向けた。  そして、少年はこの呪いに長らく苦しみ、子から孫へと、数百年に渡って、現代にまで受け継がれた。数百年に渡り苦しんできた呪いはよくやく解かれた。  神様の数百年に渡る少年への独占欲は、この日を持って美しく儚く終わりを迎えた。
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