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彼、破魔叶太は学校で最も有名な生徒だ。彼は常に能面をつけて生活しているため、誰も彼の素顔を知る者はいない。
そんな風貌をしている彼だが、学校には不思議なほど馴染んでいた。彼は誰に対しても平等で対等で善良だ。ほとんどの教師や生徒が彼を好意的に友好的に感じていた。
しかし、半年前の一件以来、彼はクラスメイトとたった一言によって、今まで築いた関係が築きた関係が一瞬にして無残に散った。今まで多くの友人に囲まれて過ごしてきた彼が、孤独になり、授業以外で教室にいることが少なくなった。
たった一人の言葉によって、彼は『バケモノ』となった。
「どうして……?」
彼は恐る恐ると聞いた。
「先生に資料をまとめるのを頼まれちゃって」
「……一人で?」
「本当は日直に頼まれたことだからもう一人いるんだけど、申井くんは習い事があるって先に帰ったの」
「……それ、サボリの常套句だよ。あいつ、習い事なんかしてないし」
「知ってるよ」
そう答えると、彼は予想だにしていなかったのか、驚いた様子で口を閉ざした。
私はホッチキス留めを再開した。
パチンパチンと音が二人の空間に響き渡る。
彼は少し間を空けてから返答する。
「……優しいんだね」
「優しいのは私じゃないよ」
ホッチキスを使いながら、私は平生を装って返答する。内心、心臓が強く速く動いているのがわかる。今にも声が震えそうだ。
「破魔、くんはもう帰るの?」
「うん」
「そっか。じゃあ、また明日」
私は彼に向かって笑顔を向けた。
おそらく、今日の会話はこれが最後だろう。そう思うと、この時間が尊いもののように思える。彼をもう少しだけ引き止めたいような気もするが、緊張のあまり私がボロを出す前にもう帰ってくれとも思ってしまう。
遠回しに、さようなら、と告げてから、彼は返答することもなければその場から一向に動こうとしない。おや? と、怪訝に思っていると、彼が重々しく口を開いた。
「……手伝おうか?」
その言葉を理解し、返答するのに一分ほどかかった。
……なんだって?
途端に早くなる鼓動。内から溢れ出したのは期待と不安、そして困惑。
この機会を逃すまいとするべきか、今にも壊れそうなくらいに動く自分の心臓を危惧するべきか──。判断に迷ったのは一瞬で、選択した答えは当然前者だ。
「ごめん、僕と一緒だと……」
「いいの……?」
最悪なことに、私の返答は彼の言葉を遮ってしまった。彼は何と言おうとしていたのだろう。
そのとき彼は驚いたように、勢いよく顔を上げて私を見た。そして小さな声で言う。
「僕で良ければ……」
「……あ、りがとう」
私は平生を装って笑って返答した。
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