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「この度は皇太子殿下に新たな作品をお目にかけたく伺いました」
父王とさして年の変わらぬ画家は拝礼すると、作品に掛けた覆いを取った。
「『ガラスの靴』でございます」
宮殿の階段の途中で透き通ったガラスの靴の片方を手にして立ち尽くす、豪華な夜会服の姿の男。
触れれば壊れそうな小さな靴の片割れを掴んだまま、虚ろな眼差しを遠くに向けている。
きらびやかな夜会服を纏い、壮麗な宮殿を背に立っているのに、彼の本当に求めるものは手をすり抜けていってしまったのだ。
「哀れな男だな」
絵の中の端正な面差しの男は在りし日のエル侯爵に似ているようでもあり、どこか自分に似ている気もした。
「いや、この殿御は想う相手を一途に探しているのです」
画家は穏やかに微笑んでいる。
「そうか」
昼前の宮殿の広間に春の綻び始めた花の匂いがどこからか流れ込んで来た。
胸の奥が痛みを抱えたまま、微かに熱を帯びる。
私は知らず知らず自分の口が呟くのを聞いた。
「きっと、探して見つけてみせる」
(了)
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