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「お二人とも踊りがお上手だな」
エル侯爵の継子である二人姉妹と続けて踊ったが、姉も妹もなかなかの名手である。
「父が私たちに教えてくれましたから」
相手は誇らかに微笑む。
恐らく実父ではなく義父の侯爵の方だ。
一際長い手足でしなやかにこの広間を踊っていた姿が脳裏を過る。
彼本人はもういないのに。
「エルはそなたたちの善き父だったのだな」
父王の呟く声に振り向くと、姉娘の手を取ってターンをするところだった。
「儂も踊りでは彼にはとても敵わなかった」
敵わないのは踊りだけではなかった気がするが、王子というか息子としては口に出さないのが優しさだろう。
曲が終わった。
「それでは、また」
「どうもありがとうございました」
娘はずんぐりした不恰好な姿に似合わず優美な仕草で一礼する。
これもエル侯爵の教育の賜物だろう。
彼本人には遠く及ばないが、教えを受けた義理の娘たちの所作には輝かしい欠片がほのみえる。
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