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ボーン、ボーン……。
壁の大時計が鳴り始めた。
十二回目を聴くまでもなく広間の人々は踊りの足を止める。
「今日は皆、良く集まってくれた」
父王はまだ汗ばんだ笑顔で告げた。
「もう遅いので、女性たちは特に気を付けて帰るように」
普段は若々しいが疲れた時の笑いの皺の深さにやはり老いが浮かび上がる。
十七歳の自分に対し、父王はもう五十に手の届く年配である。
同世代の貴族たちも一昨年エル侯爵が身罷ったのを皮切りに訃報や病の床に就いた噂が増え始めた。
今日の舞踏会にしても跡取りの自分に早い内に身を固めさせる為の相手選びを期した催しだ。
「随分沢山の方と踊ったわね」
ふわりと香ったレモンの匂いに振り向くと、母妃が立っていた。
「はい」
かつてはこの国で最も美しい女性と讃えられ、今もその面影を残す母ではあるが、年若い令嬢たちを目にした後ではやはり風雪を経た姿に映った。
「どなたか気の合う方は居たかしら」
「皆さん、美しい方ばかりですよ」
それぞれ贅を凝らした衣装で着飾った令嬢たちには世間一般では「美人」と形容される者も何人もいたが、この人と思える相手には今夜は巡り会えなかった。
ふと、帰っていく客の中にエル侯爵の二人の継娘のずんぐりした後ろ姿が認められた。
別の侯爵家の、美男子ではないがいかにも人の好さそうな息子たちと連れ立って歩いていく。
彼女らは釣り合う相手を見付けたようだ。そう思うと、安堵すると同時に自分だけ置き去りにされたような寂しさも覚えた。
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