ガラスの靴

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 *****  窓を開けると、まだ春には遠い夜の風が音もなく流れ込んでレースのカーテンを揺らす。  もう皆が眠りに就き出す頃だ。  遠くに見える街の灯りもぽつぽつ減り始めている。  代わりに空の星が冷厳な輝きを増す。  半分に割れた月はもう道のりを半ば以上過ぎていた。 「これでいいのか」  真っ直ぐ半分に割れた月を見上げて呟く。  多分、今日肖像画を見せられた隣国の姫でなくても、私はその内、周囲から「これが釣り合う相手だ」と推された女性と華燭の儀を挙げることになるのだろう。  いや、客観的に見れば、あの隣国の姫だって決して悪い相手ではない。  肖像画特有の修正や多少の美化を差し引いても不器量とは思えないし、素行や性質に大きく問題があるとかいう噂も聞かない。  何より身分や育った環境の面で自分と釣り合う相手でもある。  王妃として伴侶として長くやっていく上ではそうした女性の方が良いのだとは十七歳の自分にも分かる。  だが、このままお互いに「いつかは結婚しなくてはいけないし、余儀のないことだから」と思うような相手と結ばれる、そんな道しか用意されていないと思うとどうにもやりきれないのだ。  半分だけの月は、夜の半ばに沈もうとしている。
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