ガラスの靴

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「あの継娘たちも感じの良い娘たちではあったな」  父王も偽りのない声で告げると、寂しく付け加えた。 「エルも再婚してきっと幸せだったのだろう」  エル侯爵は七年前、病気がちだった最初の妻を亡くし、その後は子持ちの未亡人と再婚したという噂を最後に田舎に引きこもって社交界には姿を見せなくなっていた。  自分が覚えている最後の彼は、祖父の先王の葬儀に参列している喪装の姿だ。  侯爵は妻と目をかけてくれた君主を同じ年の内に相次いで亡くしたのだ。  蒼ざめた面持ちで佇立する喪服の彼を遠景に見て(エル侯爵は頭抜けた長身に一際長い手足をしていたので遠目にもすぐその人と分かった)、 「美しい人は悲しんでいる時でも、というより悲しんでいる時だからこそ、底光りするように美しいのだ」 と子供心に感じたことを覚えている。
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