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「それでは、貴女方がエル侯爵の娘御であるのか」
声は押さえたつもりだが、どうしても失望を隠せない。
「はい」
一見して姉妹と知れる垢抜けない目鼻立ちにずんぐりした体つきの娘二人の内、姉らしい方が頷く。
「正しくは母の再婚相手で義理の父でございますが」
言い掛けたところで、並んだ二人の娘の瞳が同時に潤んだ。
「私たちにとって実の父も同然の人でした」
しゃくり上げるのを堪える風に姉妹はドレスの肩を震わせ、手袋を嵌めた手を固く握り締める。
周囲の客たちの目にも痛ましい色が浮かんだ。
「そうか」
どんな不器量な娘でも真に愛する者を悼む瞬間は美しい表情を浮かべるのだとこの姉妹を見ていると良く分かる。
同時に、あのエル侯爵はもう世にないという現実をまざまざと思い知らされて胸の奥にうそ寒い風が吹き抜けていく。
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