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アパート
コンコンコン
「岩崎くーん。」
俺を呼ぶ声で目が覚める。
枕元に置いたスマホの画面を見ると、時間は午前9時過ぎだった。
いつもなら朝七時には起きて出勤しているが、今日は日曜。仕事が休みだったため、目覚ましのアラームは切っていた。
のそのそとベットから起き上がると、玄関に向かいドアを開く。
「ごめんね。まだ寝てたかな?」
「あ、いえ。大丈夫です」
目の前には申し訳なさそうに頭を掻く大屋さんがいた。
「どう、仕事は相変わらず順調?」
「はい。やりがいのある仕事をさせてもらってます」
「そうか。それは何より」
大家の谷口さんは、60を過ぎた男性で、いつも俺のことを気にかけてくれていた。
時おりこんな感じで俺に声をかけてくれ、困ったことがあれば相談にも乗ってくれる、とてもいい人だ。
「あ、それでね。実は今日からこのアパートに一人新しい人が住むことになったんだ。
何か困っていそうなら力になってあげてよ」
「分かりました。俺に出来ることがあれば」
「頼んだよ。夕方には引っ越し業者が来るらしいから」
そう言い残すと、谷口さんは去って行った。
「新しい人か、どんな人だろう」
名前も年齢も性別も分からない新しい住人に想像を働かせてみたが、もちろん何も分からなかった。
けれど、このアパートに住まわせてもらっていながらこんなことを言うのも何だが、築40年以上経っている古びた木造アパート。
部屋数は、一階、二階共に3部屋の計6部屋。
その内、住人は俺を含めて四人。全員男性で、歳も皆40以上。
恐らく同じような人がまた入って来るのだろうと勝手に答えを導きだすと、俺はいつものように歯を磨き顔を洗い、トーストを一枚食べながらテレビを観た。
「えー今日は○○区にあります、洋食屋さんにやってきました。このお店では、、、」
パチ
「見て下さい、この景色!こんな景色は他では、、、」
パチ
「今や日本において、この問題は避けては通れない。一刻を争う、、、」
パチ
「先日、○○駅の昇りエスカレータで、女子高生のスカートの中をスマホで撮影した容疑で、自称会社員男性が逮捕されました。警察の調べによりますと、男性は犯行に関して「間違いありません」と述べたとされ、他にも余罪がないか調べているとのことです。なお、被害者である女子高生は、自らが被害にあったことを写真で知ったと証言しており、写真の裏には『T-king』という、謎のサインが書いてあったとも証言しております。このT-kingは、数年前から世間を騒がしており、中には義賊的に讃えるサイトも開かれている模様です」
、、、。
「義賊ねぇ」
俺は、トーストの最後の一切れを口に入れ飲み込むと、洋服に着替え、使い慣れたリュックを背負い家を出た。
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