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突然の……
バラ園は世界各国のバラを集め、それを地域ごとに分け、その特性を生かした作りになっていた。
その中でも特に見事だったのは、やはりブリティッシュガーデン。
その美しい中にも、素朴な庭園は色とりどりのバラにも負けない個性を放っている。
理一に説明を受けながら、美織はたくさんのバラと庭園を堪能した。
たまに隆政が、二人の間に割り込んで威嚇していたが、花の説明をする理一にはどこ吹く風のようだ。
よっぽど花が……バラが好きなのだろうなと、その情熱を美織は少し羨ましく思った。
「どう?勉強になった?」
理一の問いかけに、美織が答える。
「なりました!どうも有り難う。うちのバラももう少し肥料の種類を変えてみたりしますね」
「うん。いろいろやってみて。わからなかったら何でも聞いて!連絡先教えたいけど、隣で怖いお父さんが睨んでるから……隆政経由でもいいからね」
と、隆政を茶化した。
「ふふっ、うちの父がすみません」
「みおっ!?それは……酷いぞ……」
隆政は本気でへこんだようで、ガックリと肩を落とし座り込む。
そんな隆政の腕を持って立たせながら、理一は愉快そうに大声で笑った。
「悪いな、せっかくのデートを邪魔して。ここからはお二人でどーぞ。あ、帰る時は事務所に寄ってくれよ!」
「ああ」
「お世話になりました!」
理一が片手を上げて大股で去っていくと、その後ろ姿を見ながら隆政が呟いた。
「変わらねーな」
「境さん?」
「うん。あいつはあんな風にいつも軽口だが、実は面倒見がよくて人間が出来ている」
「隆政さんと正反対ですね」
「言うねぇ……でもまぁ、その通り。何かを育てられる人間っていうのは優しいのかな……みおもそうだし……」
「私は優しくないですよ」
「優しいよ。本当なら俺のこと突き放したって良かったんだ。だけど、こうして会ってくれてる。仕方なくかもしれないけど、うれしいんだ」
「……そうですか……あ、お腹空きませんか?」
自分を見つめる隆政の目に耐えられず、美織は話題を逸らした。
「そうだな……そういえばここまで来る途中で、食べるところが……」
「実は……えーと、実はですね」
「ん?」
美織は辺りをキョロキョロと見渡し、影になったベンチを発見すると、隆政の手を引いて早歩きで移動する。
そして、隆政が背負ったバックパックをベンチに下ろすと、中から三段に重なった大きな弁当箱を取り出した。
「作ってきたんで……良かったら一緒に食べませんか?」
「……お弁当……」
「はい……あ、え?隆政さんっ!?どうしたんですか!?」
見ると隆政の顔は真っ青だ。
彼は両手で顔を抑えベンチに座り込むとそのまま動かなくなる。
「……隆政さん?……」
一体何が……そう思い美織は何度も何度も話しかけた。
だが、隆政はその姿勢を変えることはない。
一向に呼びかけに応じないのを見て、美織は急いで立ち上がると隆政に向かって叫んだ。
「ちょっと待ってて下さい!境さん呼んで来ますからっ!!」
何か知らないけど、大変なことが起きている。
隆政にとって大変なことが……。
美織はとにかく走った。
「すみませんっ!!」
扉を荒々しく開け、中に飛び込むとデスクに座った理一に掴みかかるように言った。
「た、隆政さ、んがっ!!おかしくて、早く、助け……」
美織の取り乱した様子に、理一は状況を把握した。
そして、すぐに走りだし先ほど別れたところまで一気に駆け抜ける。
ベンチにはまだ動けずにいる隆政が同じ姿勢で俯いていた。
理一はすぐに近づきその様子を確認する。
「おい!!隆政!!」
顔を覆う手をどけ隆政を確認した理一は、後ろで心配そうに見ている美織に微笑んだ。
「加藤さん、大丈夫だから。ちょっと事務所のソファーで休ませるね。少しここで待っててくれる?」
「え、でも……私も何か手伝います」
「ううん、大丈夫、待ってて」
有無を言わさぬ理一に、美織はそれ以上何も言えなかった。
その場に1人残った美織は、出しっぱなしのお弁当をしまうと深くため息をついた。
(間違いなくあれは私のせいだ。私のお弁当を見てからだったもの。でも一体どうして……)
その理由は、どんなに考えてもわからない。
そもそも理由を思い付くほど、美織は隆政のことを知らなかった。
そして、10分くらいたって理一が美織の元へやって来た。
穏やかな笑みを湛え美織の隣へ座ると、静かにゆっくりとした口調で話しかけてくる。
「びっくりしたよね……あれね、オレも最初見たときビビったよ」
「最初?」
「中学の時にね。隆政と両親が事故に遭って、両親は死に、あいつだけが生き残った」
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