カウンセラー?

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カウンセラー?

「それにしても旨い!!みおの味付けは天才的だな!このきんぴらなんて甘さと辛さのバランスが絶妙だ。唐揚げも生姜が利いてて凄くいい!うん、絶対結婚しよう」 隆政は少し前まで臥せっていたとは思えないほど回復した。 一口食べたと思ったら、後はもう次から次へと美織へ賞賛の言葉を並べている。 漸く羞恥プレイから解放されたはいいが、今度は誉め殺し。 料理を誉められるのは嬉しい。 だがあまり言い過ぎると、なんだかわざとらしくて変に勘繰ってしまう。 「どーもありがとう。でも結婚はご遠慮します」 「ははは、まぁそれは追々な」 (追々……って何?!) 「本当に旨いよ……最後に食った弁当の唐揚げもこんな味だった……あの日も凄く楽しくて、まさか、帰りに全てを失うなんて思ってなかった」 少し感傷的になった隆政に美織も食べる手を止めて耳を傾けた。 「そうね……大事なものを失うのは、いつも突然……」 美織も父親と母親を失ったあの日を忘れたことはない。 いつものように送り出されて『学校でねー!』と笑って言った両親。 あの笑顔が最後になるなんて思っていなかった。 「正直、こうやって事故のことを話せる日がくるなんて思ってなかったんだ。思い出すだけで、何も考えられなくなって怖くて怖くて。不思議だな、みおにはこうやって話しても全然平気だ。むしろ心が軽くなる」 美織を見つめる隆政の目は、いつもと少し違っていた。 自信たっぷりで口説く時とは違う、何か穏やかで心を預けてくるような優しい目だ。 「きっと私があなたと同じだからでしょうね。ほら、海外なんかで同じ病気とかトラウマを抱える人達が集まって、自分の話をするでしょ?そういうことと一緒かなって……」 「なるほど……俺はみおといるだけでカウンセリングを受けている状態になるわけだ」 「カウンセラー……か。ふふ、お安くしとくわよ」 「金とるのかよー」 そういって隆政は、卵焼きにかぶりついた。 いつの間にか、バックパックからはみ出たお弁当箱を見ても彼はパニックになることはなくなっている。 たくさん入っていたおかずもおにぎりもすっかりなくなって、最後に残った梨とキウイフルーツをまた美味しそうに隆政は頬張っていた。 そんなにたくさん口に入れなくても、誰も盗りはしないのにと、その必死さに美織は笑いを堪えるのが大変だ。 「あー、旨かった!!……あの、さ、良かったらまた……作ってもらいたい」 「えー?結構疲れるんですけどー」 (嘘ですけどねー) 「たまにでいいから!!2週間に一回、いや、1か月に一回でいいので、どうかこのとおり!!」 と、芝居がかって頭を下げる隆政を見て、美織はクスクスと笑った。 お弁当を作ることも、早起きすることも苦ではないし、むしろ好きだ。 別に2週間に1度でも全然構わない。 でも、大きな犬(隆政)が服従するように頭を下げているのが、何故だかとても気分が良かった。 (……いや、私は断じてドSではない!ないったら!) 「……うーん、どーしよーかなぁー?」 「たのむよー」 と、今度は上目遣いですがる作戦に出た。 「はぁ……しょうがないですねー。また今度出かける時に作ってきます」 「やった!!」 「あ、何かリクエストはあります?」 「え?そこまでしてくれるのか?それは…みお……それは……もしかして」 「好きじゃないですよ?」 「あ……そ……ま、いいや、これからだから!!もっとこれから攻めていくから!!」 (これ以上攻めてくるのっ!?) 「それは遠慮します。どうか止めてください!!」 美織が両掌を向け拒否する姿を見て、隆政は大きな声で笑った。
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