続・美味しい焼き鳥の店

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続・美味しい焼き鳥の店

「ま、とにかく、注文通してくるから!食べながらゆっくり語りたまえよ!」 難しい顔をした隆政の肩を叩き、梨沙は座敷を後にした。 その後、暫く重苦しい雰囲気は続いた。 どこを見ているのかわからない隆政の前で、美織はひたすら水着のお姉さんの素敵な笑顔を見ている。 (そう言えば、今日のことについて何か話があるんじゃなかったかな?) 確かそう言って連れてこられた筈だ。 美織は水着のお姉さんから、隆政に視線を移す。 「隆政さん、昼間のことなんですけど……」 と言った美織の言葉は野太い声に掻き消された。 「お待たせしましたー!」 今度は大将が注文の品を持って入ってきたのだ。 生中を美織の前に置きウーロン茶を隆政の前に置くと、ニヤニヤしながら2人を交互に見る。 「何だよ、何か言いたいのか?」 「梨沙に聞いたよ。タカに本気で惚れた女が出来たってな!」 「冷やかしか?」 睨む隆政を無視して、大将は美織に自己紹介を始めた。 「はじめまして、俺、武田洋二。こいつとは、小中が一緒なんだ。あ、幼稚園もだなー」 「どうも、はじめまして。加藤美織と言います」 「で、どこで出会ったの?」 という答えにくい質問に美織は目を逸らしてあははと笑った。 (かなり最悪な出会いでしたけど、説明した方がいい?) 隆政を見ると、そちらもばつの悪そうな顔をしている。 大将……洋二はそれを見て、全て納得したように頷いて言った。 「ははーん、大方美織ちゃんが怒るようなことをやらかしたんだろう……」 (エスパー!?) 「こいつは何でも出来て本当に嫌味なやつなんだ。それでもって金持ちで、顔がいい。そんなやつは大体性格が悪い」 「悪かったな……」 隆政はボソリと呟き洋二を睨んだ。 「まぁまぁ。ここから誉めてやるんだからな。えーと、そう性格が悪いんだが底意地は悪くないんだ」 「底意地??」 美織は洋二に尋ねた。 「うん。根っこの部分はとても優しく出来てる。よく宿題を写させてもらったよ」 「それは……何か違わないか?宿題と底意地がなんたらとは関係ないだろう」 隆政はねぎまを頬張りながら軽く笑う。 「ああ、全く無いな。だがまぁ、助かってたんだよ。俺ん家はほら、こんな商売してただろ?店の手伝いで忙しくてよく宿題を忘れたしな。それが続いて親を呼ぶって担任が言い出したの、覚えてるか?」 「そんなこともあったな……」 「そう、それから朝学校に行ったら、何故か俺の机の上にお前の宿題ノートが置いてあるんだよ。最初は置き間違えたのかと思ったんだ。何も言わねーからわかんねぇし」 洋二は懐かしむように頬杖をつき、ウーロン茶を飲む隆政を見た。 美織も隆政の様子を伺う。 すると、顔は冷静を装っているが耳が真っ赤になっていた。 明らかに……照れている! 「結局梨沙がせっかく置いてあるんだから写せって言ってさ……それで、宿題を忘れなくなったら、担任の小言も、親を呼ばれることもなくなったんだ」 「隆政さんって、実は優しいんですね」 と美織は隆政に笑いかけた。 耳だけ赤い彼をもっとからかってやろうと思ってのことだったのだが、結果は想像以上になった。 目の前の隆政の顔が、アルコールを飲んでもないのにみるみる真っ赤になったのだ。 (タコ!?タコみたいになってる!こんなに赤くなる人初めて見たわ!) 美織は大満足して生中をゴクリと流し込んだ。 「わかりやすいな、おい。ベタ惚れか?そういや梨沙が言ってたが、まだ付き合ってないんだよな?美織ちゃんは実際どう?隆政のこと、少しはいいと思ってる?」 (そんな、ストレートに聞かないでくださいます?うーん、いいと思ってるか?……悪い人ではないんじゃないかと、思い始めているんだよね) 「最初は大嫌いでした」 隆政は頭を抱えて俯き、洋二は身を乗り出した。 「おっ!言うねぇ、で今は?」 「思ったよりもいい人なんじゃないかと……思います」 隆政はバッと顔を上げ美織を見た。 「そう!いい人か。それでも少し進歩だな。マイナスからだもんな。これは少しずつプラスにして行くしかないなぁ?」 「わかってるよ。そのつもりで頑張っている」 決意表明のような隆政の言葉に、洋二はニッコリ笑ってウンウンと頷いた。 だが次の瞬間、遅いっ!と座敷に殴り込んで来た梨沙に、引きずられるようにその場を後にするのだった。
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