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がーるずとーく 2
「あ、美織さん、またメッセージ来ましたよー」
スマホの近くにいた寧々が、一番に気付いて美織に言った。
昼休みもあと十五分ほど。
ちょうど食事が終わった頃に、いつも隆政はメッセージを送ってくる。
付き合う前は、それでも一言二言だったのが、付き合ってからは恐ろしいくらいの量が送られてくるのだ。
美織は前に寧々に言った言葉を思い出し、一人でクスリと笑った。
『友達でこれなんだから、彼女だったら一時間おきなのかなぁ』
(やっぱりそうだったわ。さすがに一時間おきではないのが救いかな)
「出張でしたっけ?」
スマホを除きこみながら寧々は言う。
「そう、年末だし、出張も多いんだって」
「折角付き合い始めたのに、全然デートしてないじゃないですか!!」
そういえば、付き合い始めてからどこかに出掛けたことはない。
だけど、まだ一週間しか経ってないし金曜から出張に行ったため、土日会えなかったというだけだ。
「そうね。でも……付き合い出したからってそんなに前と変わらないでしょ?」
「えー、そうですかぁ?もっとずっと一緒に居てイチャイチャしたくないですか?」
「え!?イチャイチャ!?ええと、まだそういう段階ではないと思う……わ」
「何言ってるんですか!そういう段階って……美織さんお堅すぎ!そんなのもう、勢いでやっちゃうもんですから!」
(勢いでやっちゃう!?)
「そうね、寧々ちゃんが正しいわ」
……芳子も勢いでやっちゃう派だった。
美織はどうやらここでは少数派らしい。
そんな美織も男の人とつきあったことがないわけではないし、そういった経験がないこともない。
だが、持って生まれた『石橋を叩いても渡らない』気質が軽々しくそういったことに踏み出せなくさせる。
お堅い……寧々の言うことは合っていると思う。
「そうなのかな?やっぱりお堅いの?私?」
「加藤さん、もちろん気が進まないのにヤれとは言ってないわよ」
(ヤれ……て……たまに言うこと凄いのよね福島さん……)
「はぁ……じゃあお堅いって言われないようにするにはどうするの?」
「心の感じるままに行動すればいいんです!」
寧々の目はキラキラしている。
こういった話題が好きなのか、もう食い付きが凄いし、身の乗り出し方も酷い。
「心の感じるままに……?」
寧々はとても大きく頷いた。
その顔は『当然わかりますよね!』と言っているようだが、美織には良くわからない。
仕方なく僅かに残っている昔の記憶を一生懸命辿ってみた。
(ええと……学生の時付き合った彼とは……私の誕生日に外食に行って、ついついワインが美味しくて飲み過ぎて酔った勢いで……あ?え?これ、勢いでやってない?)
「先生、酒の勢いも《心の感じるまま》に入りますか?」
美織は真っ直ぐ優等生然として手を上げた。
その質問に芳子は真顔で答えた。
「入ります」
寧々もその横でうんうんと頷く。
どうやら、美織もそこまで堅物ではなかったらしい。
二人と同じカテゴリーに入ることが出来てホッとしたのも束の間、芳子がさらっと言ったことが波紋を呼んだ。
「そこから恋が始まって結婚することもあります。かくいう私もそうよ」
横で頷いていた寧々が、凄い速度で芳子を見た。
そして当然美織も見た。
芳子の旦那様は寧々も美織も良く知っていて仲が良い。
家に遊びに行ったこともあるくらいだ。
なぜそんなに仲が良いかと言えば、旦那様も同じ職場にいるからだ。
「先生その話をちょっと詳しく……」
寧々は食らいつくように芳子に言ったが、その時ちょうど昼休み終了五分前のチャイムが鳴った。
芳子は何事もなかったかのようにお弁当箱を包み直し、表情を変えずに立ち上がる。
「残念ね。もう時間よ」
と、歯磨きのためにさっさと洗面所に歩いていった。
放置された寧々は、残った卵焼きを勢い良く放り込むと自分も急いで後を追う。
「絶対明日聞いてやる!!ね?美織さんっ!!」
「え?……ええ、そう……ね」
そう言ったものの、あまり知ってる人の生々しい話は聞きたくない。
会ったときに変な想像をしそうで怖いし、自分の時もそんな想像をされたらたまらない。
もしも、隆政とそういうことになったとしても軽々しく言うことは控えた方がいいかもしれない。
と、思いつつ、そんな機会が果たして訪れるのか?という疑問が頭の中を駆け巡っていた。
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