黒薔薇の花束

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「はあぁぁ⋯⋯」 「先輩どうしたんですか?」 私がため息を吐くと隣で資料を作っていたナナがタイピングしていた手を止めて私に聞いてきた。 「いやさ〜さっき私すごく上司に怒られてたでしょ?」 「あぁ、なんかすごい剣幕で怒ってましたね」 「実は接待室にコーヒー運んでいるとき躓いてさ、相手のお偉いさんと重要資料ほぼ全部コーヒー塗れにしちゃってさ⋯」 「あぁ⋯⋯御愁傷様です」 ナナは哀れみの目を私に向けながらそう言った。 「⋯私の首大丈夫かな」ぼそっ 「先輩何か言いましたか?」 「なんでもない」 ナナの方を向くととっくに資料作りに戻っていった。 いつもの様に両手でキーボードを叩くものだからリズミカルなカタカタ音がなる。何回聴いても良いリズミカルな音だと思う。 「でも大丈夫ですよ!」 彼女のリズミカルなタイピング音を聴いているとナナが急にそんなことを言い出した。 「大丈夫って何が?」 「雨が降ると虹が見えますから!」 「???」 私の頭の中にはハテナしか浮かばなかった。 雨が降ると虹が見える?言った何が言いたいのだろう? 謎は残ったがいつもの事だと勝手に頭の中で解決し私も自分の仕事を始めた。 そうたまにナナはこんな事を言うのだ。 おそらく何かを他のもので例えたのだろうけど⋯正直よく分からない。 個人的には直接言ってくれると嬉しいんだけど、例えるのと何が違うのだろう? 昼休憩に入りナナと一緒に昼ごはんを食べていると携帯が揺れた。おそらくメールだろうと思い画面を覗くと彼氏からのメールだった。パスワードを解いてメールを見ると「今日大事な話がある」と書いてあった。 「彼氏からですか?」 カツ丼をほうばりながらナナは私にそう訊いた。 「そう、なんか大事な話があるんだって」 「お、早速虹が出てきましたね!」 「⋯ねぇ、ナナが言う虹ってなんなの?」 ナナはニコニコと笑うだけで何も言わなかった。 聞いていないのか、それとも聞かないようにしているのか、今のナナの表情ではそれらを読み取ることはできなかった。
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