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「…けど、それは自分の力"だけ"じゃない。」
「!」
「この学園の教師、警察、町で働くコック、バスの運転士、誰も彼もが庶民だろう。
お前が毎日食べる食材は農家や漁師、卸売業者…努力の賜物だ。
…それがどうしたとでも言うつもりか?
庶民だからと侮るつもりか?
お前の暮らしは庶民の上に成り立ってるものじゃないのか?
それとも、庶民は金で機嫌をとってればいいだろってのがお前ら金持ちって奴なのかよ?」
「なっ…」
衝撃が走った顔になる男。
だが、まだオレの口撃は続く。
「お前が今踏みつけた私のヘッドホン。デザイン、設計…中身に関しては作曲作詞、レコーディング、チェック、データ化、打ち合わせ、配信…とにかく沢山の作業から成り立っている。
そしてそれをオレにプレゼントすると汗水流して働いて、自慢げに嬉しそうに渡してきた奴がいた。
いいか?今お前が踏みつけたのはただの安いヘッドホンじゃねえ。
——人の時間と魂と労力と想いだ。
お前は上に立つ人間であるのにそれらをぞんざいに扱った。そして周りはそれを賞賛し、笑った。」
意地悪く笑いながら、グルリと周りのボンボン共を睨め付けるように見回す。
「優しい?慈悲深い?馬鹿言うな。
人の思いを踏みつける奴が優しい訳がない。
分かるか?お前らは今間違ったんだ。
私を殴る蹴るしてもよかったんだ、それなのに私みたいなクズのために、そう私のために‼︎
人々の思いを踏みにじった最低野郎になった!成り果ててしまった。
あぁ、私はそんな貴方が哀れで仕方ない。
可哀想に。ああ、本当に、」
——可哀想。そう続ける前に右頬に激しい痛みが走り、ぐらんと目眩がした。
目の前には怒り、そして"怯えた"顔。
だからオレは笑ってトドメを刺した。
「"慈悲深い"会長サマ、良かったですね。
悪を滅ぼすヒーローごっこができて。」
慈悲深い、を強調して言うと
ソイツは苦虫を噛み潰したような顔をした。
「…じゃあ、悪役はここで退場しますよ。
これからはもう少し、勉強してくださいね。
…だってここは学校なんですから。」
ヘッドホンのカケラを集めて、「先に行く。付いてくんなよ」と小声で大祥に伝える。
オレはそのまま一人で廊下へと歩いて行った。
周りの視線なんぞ知るか。
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