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後編
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身体が重い。
鉛をつけられたかのように、ものすごく重い。
でもとりあえず、全身が地獄の業火に包まれているとかそういうことはないみたいだ。
嘘をつくと抜かれるという舌も、まだその存在を感じることができた。
懸命に意識を集中させると、ゆっくりと目が開いていく。
真っ先に飛び込んできた色は、白。
ここは、天国になんだろうか。
どっちでもいいなんて格好つけた手前、今さら地獄なんて嫌だと駄々をこねるわけにはいかないけれど、天国と地獄の二択ならやっぱり天国――
「ぐぼふっ!」
肺のあたりが急にべコンと凹み、変な声が出た。
「ばかっ!」
「なっ……え?」
「ばかっ!」
「親太郎……?」
「ばかばかばか!」
ポカスカと俺をタコ殴りしていたのは、SSコンビの白い方――佐原親太郎だった。
「ばかっ!」
「うっ!ちょ、容赦なさすぎ……」
「志信のばか!なんで庇ったんだよ!」
「へ?庇った……?」
あ。
なんとなく思い出した。
今日は高校最後の水泳大会で、応援に来てくれてた親太郎と一緒に帰る途中でトラックに轢かれそうになって、咄嗟に親太郎をドーン!
俺はトラックにドーン!
てことは、この白い空間は病院か。
天国じゃなかったのか。
死なななかったのか。
親太郎も、俺も。
「ばかっ!」
「……ごめん」
「ばかばかっ!」
「ごめん、親太郎」
「ばかっ!」
「好きだよ」
「ばっ……」
「ずっと、好きだった」
「……ばか」
「うん、ばかだな」
顔を伏せておいおいと咽び泣きし始めた親太郎の背中をさする。
首筋が白い。
白くて、でもほんのりあたたかい。
血が通っている証。
細いラインをそっと辿ると、包帯の巻かれた手首がツキンと痛んだ。
痛みが、生を強調する。
どうして、死神は俺を生かしたんだろう。
あまりの馬鹿さ加減に呆れたんだろうか。
それとも、魂を取り違えたお詫びだろうか。
どっちにしても、
「ありがとう、死神」
遠くの方で、しゃがれた声が笑った気がした。
fin
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