0人が本棚に入れています
本棚に追加
れおの話
「ほーら、みんな起きなー。朝ごはんできてるから」
俺の家は6人家族だが、両親は仕事で海外へ行っているため、弟たちの面倒を見るのはすべて俺の役目だ。あと何週間か先には両親が帰ってくるたのことで、内心ほっとしている。
「おにーちゃん…!」
これは なお の声だ。
「んー?なんだ、どうした」
「なんで一緒に起こしてくれなかったの!?」
「えー?だって昨日寝るのちょっと遅かったでしょ?ゆっくり寝てほしかったから」
「うー…////」
ははっ、かわいい(笑)
なお の後に続いて ゆう と れお が降りてきた。
「んぁ…さく兄おあよぉ~」
「おはよう れお」
「おはよう、お兄ちゃん」
「おはよ、ゆう」
「ちょっとれお!おはようくらいちゃんと言いなよ!」
「なんだよゆう兄!ちゃんと言ったじゃんか、ばか!」
「ちょっと、れお!」
「まてまてお前ら喧嘩すんなよー。なおびびってんじゃねーか。」
なおの様子を確認したゆうがさっそく謝ってきた。
「ご、ごめんねなお」
「ううん、だいじょうぶ…」
「けっ、なおは弱ぇのな」
れおの言葉をきいたなおが泣きそうな顔になってきた。
「あーほらほら、大丈夫だよなお、な?」
「ううう…」
「おい、れお。お前もちょっと言い過ぎだ。」
俺の声のトーンが低かったのか、れおが珍しく謝ってきた。
「ご、ごめんて」
「ん、よろしい。じゃ朝ごはんたべるか」
とまあ、これがいつもの秋月家の朝。朝でもこんなだから夕方になるともっとひどい。色々ごちゃごちゃと考えていると、時間がかなり押していることに気づいた。
「みんな支度できたかー?そろそろ出るぞー」
「ねえ、さくにぃ!なおが!」
ああ、またか…
時間がないってのにもー。
「なーおっ、どうした?まだいやか?」
なおは無言で頷いた。
「なあ、なお。幼稚園行きたくないのはわかるんだけどさ、ちょっとだけでも行ってみない?」
「れおはね、れおはね、幼稚園楽しいよ!!」
「はいはい、わかったから落ち着けよ。な?れおも、ああ言ってんだし行ってみないか?」
……。
「……コクリ……」
「よーっし、えらいぞー」
このままのペースじゃ遅刻しかねないと俺は急いで支度を始めた。
「お兄ちゃん、僕先いくね」
「おう、気をつけてなーゆう」
「はーいっ、行ってきます」
ヤバイヤバイ、急がねぇと…
「よっしできた!さ、いこう」
時間がないので、二人を抱きかかかえながら走った。
「よーし、とうちゃーく。ささ、降りた降りた。」
「じゃね、さくにぃ!」
「あっ、おい。ほら、なおも。どうした?」
さっきまでなんともなかったなおが、どんどん涙目になっている。ここで泣かれると厄介だ!!
「あっ、あの!先生、」
「はーい、おはようございます」
「おはようございます。あの、なおをお願いしてもいおですか?」
「ええ、もちろんですよー。ほら、なおくん?こっちで一緒に遊ぼうかー。」
「ゃ...ゃゃ....っ....ぅぇぇぇ..」
なおが先生を拒絶するが、先生はひょいっとなおを抱き上げた。
「はーい、お兄ちゃんにいってらっしゃーい!」
「ゃぁぁぁぁ!!いゃゃぁぁぁ!!!!」
「ありがとうございます。じゃえ、なお」
「いゃゃぁぁぁぁー、ばいばいちがぅのー!」
それからダッシュで走ってギリギリセーフ。なんとか間に合い、一時間目の授業を受けた。
そして夕方、学校帰りにスーパーで買い物をしてから幼稚園に迎えにいっていたので、いつもより時間が遅くなってしまった。なおの泣いている姿が目に浮かぶ。さすがにあいつは兄離れしないといけないんじゃないかと毎日不安だ。
「こんにちはー。お迎えに来ました。」
「秋月さん、こんにちはー。れおくん、なおくん、お兄ちゃんきたよー」
先生がそう言った途端に、何かが俺に体当たりしてきたので、バランスを崩し、俺は尻もちをついてしまった。
「いてて…なんだよもぉ…。あ、なおか。今日1日よくがんばったなー。偉いぞー。さ、帰ろうか。おーい、れおー、はやくしなよー。」
「さく兄おそい!!!」
「ごめんて…」
すると隣では、なおが俯いたまま俺の服の裾を握っていた。
「ん?どうした、なお?」
「……だっこ……」
「だーめっ、お兄ちゃん今荷物もってるから自分で歩きな?」
「…ぅぅぅ…だぁっこ…!!!」
「あーもー、わかったから泣くなよー」
荷物片手にしかたなく抱いてやった。少し腕がいたい。
しばらく歩くと、なおに、チョンチョンと服を引っ張られた。
「ん?なんだ?」
「んん……」
なおが後ろの方を指差した。
あれ?れおがいない。え?え?どこいった??俺は一瞬パニックになった。そこへちょうど、ゆうが通りかかった。
「あ、ゆう!!ちょっとなおと先に帰っててくれないか?すぐ戻るから!!」
「え、いいけど、どうしたの?」
「大丈夫、すぐもどるから!!」
「え、あ、ちょっと!」
一応、もと来た道を探してみる。
「れおー!れおー!どこにいる!?」
探しはじめてから大分経っている。もう日が暮れそうなのに、れおが見つからない。れおが行きそうな場所を徹底的に、思い付くところはすべてさがした。もう一回りしてみようかと公園の側を通ると、すすり泣く声が聞こえてきた。近寄ってみると、体育座りで必死に目を擦っているれおがいた。
「れお!?」
俺の一言でパッと顔をあげた。そして、いきなり飛びついてくるものだから思いっきし後ろへ倒れてしまった。
「はぁぁぁぁ…よかったぁ、れお。みつかってよかった…。」
「さ、さくにぃぃぃぃぃぃぃ」
見つけたときもうっすら泣いていたが、よほど不安だったのか、今はもう大粒の涙を流していた。
「ふぅ、よしよし。泣かない泣かない。」
「ふぅぅぅぅぇぇぇ…。な、ないてないもん!!」
こいつ、結構プライドたかいもんなぁ。
「ほら、いつまでもくっついてないで帰るぞー、立て。」
「!!ひ、ひっついてないもん!!」
「はいはい、わかったから。皆家で待ってるぞ。」
「………………。」
なんかやけに静かだと思い、ふと隣を見ると、れおがしんみりした様子で下を向いていた。
「れお??どーした、どっか痛いのか?」
「………だ、だっこ…して…ほ、ほし…」
「……。ぶはっ!!!あっははは!」
「なっ、なんで笑うの!!!もういい!」
「わりぃわりぃ、いつも生意気なくせに急にだっことか言うもんだからつい。ほら、おいで??」
「……っ、いいって言った!!」
「………。」
れおの、ふてくされっぷりに俺はひょいとれおを抱き上げた。
「……!!」
「いつまでもふてくされてんじゃねぇーぞ。普段から素直になったらいいのになぁー。」
「フイッ…………。」
こいつ…、かわいくねぇーなぁー。ま、いっか。
何だかんだで家についた頃には、すでに6時半を過ぎていた。
『ただいまぁー』
「ゆうーいるか?買い物したやつ冷蔵庫にいれといてくれー。」
だっこしていたれおを降ろしながらゆうを呼んだ。
「あ、おかえりー。今行くから待っててー。なお、荷物持ってきてあげて?」
「はぁ~い。」
リビングからなおが現れた。
「おかえり、お兄ちゃん達。」
「おう、ただいまぁー。れお、手洗いうがいしてきなよ。」
「わかった………。」
なぁーんで機嫌悪いんだ?あいつ。
「お兄ちゃん!荷物かして??」
「お、おう!ありがとな、なお。」
「えへへ~」
頭なでられてなおは嬉しそうだ。さて、夕飯つくらないとなぁー。
「あ、お兄ちゃん。ご飯作っといたよ。簡単だけどね」
「え、まじか!?お前やるなあ。助かったよ、ありがとな」
「どういたしましてー。そーいや、れおは?」
「あー、二階かな?ちょっとみてくるわ」
いつもならうるさいほどさわいでるれおが今日はまた静かでちょっと心配だ。
「れおー?何してんの?ご飯たべないのか?」
部屋の外から聞いてみたが返事がない。
「れおー?はいるよ?」
「こ、こないでいいっ!!!」
えっ…拒絶された。れおの声、なんか枯れてなかった??
「れお、やっぱりはいるよ?」
布団が大きくふくらんでいた。
「れお、具合悪いのか??」
「…………。」
「なんか話してくんないと分かんないよ?」
布団がモゾモゾと動き、布団から顔を出したれおが俺に背を向けて座った。
「なんかあったか?お兄ちゃんに話してみない?」
「……いつ、帰ってくるの?」
「え??」
「パパとママ、いつ帰ってくるの?」
れおからの予想外な返答が帰って来て驚いた。
「なんで、急にそんなこと思ったの?」
「………。」
ありゃりゃ、黙ってしまったか。まあ、道でも時たま家族連れとか見かけるもんな。生意気だけど、まだ幼稚園児だし。寂しくもなるんだろうな。
「パパとママはもう少ししたら帰ってくるよ。」
「……はやく、帰ってきてほしい」
寂しかったのかと問えば、無言でコクリと頷いた。かわいいとこあんじゃん。
「れお、おいで?だっこしたげる。」
「………。」
無言でこちらを向き、タッタッタッとかけてきて、ポフッと俺の腕の中へおさまった。弱々しく声を出さずに泣いていたので、なにも言わずに抱き締め、ちょっと落ち着くのを待ったあと、声をかけてみた。
「よしよし、寂しかったな。よく頑張った。」
「うぅぅぅぅぅぅぅ、ふぇぇぇぇぇ」
「お兄ちゃーん!もうごはんたべたよー!」
下からゆうが叫んできた。
「うーい、先に二人で風呂はいっててくれ」
「わかったー」
ほんと、物わかりよくてたすかるわ。
「れおー、ご飯たべようか。したいく?」
「……ここで、さくにぃと食べる。」
「了解。じゃ、待っててな?持ってくるから。」
「わかった。」
そっからはまあ、飯たべて、風呂入って、順調な流れだった。そのあと、俺もれおも別々の部屋に入ってわかれた。部屋は、なお と れお と ゆう の三人の部屋と、俺の部屋とある。
俺も今日はつかれたので、早く寝ようと布団に潜り込んだ。その直後だ。れおが部屋に入ってきたのは。珍しいこともあるもんだと思いながらも、どうかしたのかと聞いてみると、
「一緒にねる」
と、返ってきた。もう笑うしかない。そのまま返すのも可哀想なので、俺の布団へ招き入れた。
「なんだ、お前。今日はずいぶん甘えただなぁ」
「うるさいっ」
「はいはい。」
まあ今日は、れおのかわいい一面が見れたので許してあげましょう。
最初のコメントを投稿しよう!