1.奇跡の子供たち

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1.奇跡の子供たち

 暖かい陽気に包まれ木々は緑を一層深くし咲き乱れた花々を摘んでは喜びの声を上げる幼い少女達。  太陽の光を反射させキラキラと光る水面に細い葉で作られた小さな舟がいくつも流されてそれを追いかけるように走る少年達は自分の舟を必死で応援しながら砂利道を駆けていく。  美しい歌声が響くのは村の飲み水が湧き出る井戸の周り。 頭に布を巻いて洗濯に精を出す女達が声を揃えて歌を唄っていた。  厳しい冬を越えて待ちに待った春の訪れに村人達からは自然と笑みが零れる。  そんな村の様子を眺めながら隣の若い世話人に手を引かれ歩く老婆の足取りは少々覚束ない。  こちらへと歩いてくる老婆の姿に村の女達が気付いた。  「ババ様よ」  「ババ様だわ」  口々に老人を指差しながら周囲の人間達にも村一番の長生き老婆がやって来たことを知らせる。  その中の一人の女が老婆の前に立ち優しい笑みで彼女を迎えた。 「ババ様。今日はとっても顔色が良いですわね」  女の笑みにババもしわくちゃの顔にもっと皺を寄せて笑った。 「春になって精霊たちも喜んでおるから私もつい外に出たくなっての」  “精霊”の言葉に女はにっこりと微笑んだ。  「今年からウチのザードもババ様の元で修行します。どうぞあの子をしっかりとしかってやって下さいね」 女の言葉にババは笑った。 「キイナの末息子もそんな歳になったのじゃのう。楽しみにしておるよ」  キイナと呼ばれた女ははい、と笑った。 国一番の長寿、ババの正確な年齢を知る者はいない。百は軽く越えているとの噂はあった。 そんなババを中心に活気に溢れるこの村は海に面した豊かな国・ツァイト国で最も有名な村・サムテラ。 古代先住民の言葉で精霊の住む森を意味する。 毎年春になるとサムテラには国中から子供達が集まってくる。 彼ら彼女達はそれぞれに人よりも優れた能力を持っていた。 それは単純に超能力と言うものでその能力自体は様々ではあったがその能力を正しく使うために子供達はババの元へとやって来るのだ。 この世界には二つの未知なる奇跡が存在する。 一つは精霊術。 総ての自然に存在するとされる精霊達の声を聞き、彼らの力を借りて不思議な奇跡を起こす力。 二つ目は魔術。 自分の内なる力を形にさせて奇跡を起こす力。 ババはツァイト国を始め隣国でも有名な精霊術の使い手であり、そんな彼女の元で力の欠片を持つ子供達を修行させることは慣例であった。 しかし、力の欠片を持つ子供は多かったが修行を積み、一人前の術者として成功する者は少なかった。 成長と共に力が薄れていくのがほとんどだったからだ。 しかし今年は違うとババは予感していた。 夕べ見上げた星が彼女に語ったのだ。 奇跡の子供が現れいずれその子供は世界の歴史すら導く存在となるだろうと。 「ババ様。どうされましたか?」 心配そうに顔を覗き込む世話人のツェッカにババは首を横に振った。 「何でもない。そろそろ帰るとするよ」 ツェッカは頷いた。
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