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両親に手を引かれてやって来る子供達の表情は緊張に引きつっていた。
ババの元で修行をする者達は全員が同じクリーム色の服を着ていた。
今日はババの元で修行を望む子供達の試験の日。
他にも術者たちは居り、それぞれにみな弟子を取って次の世代を担う術者を育て上げる。
術者として一人前になるとその力を活用して仕事が出来る。優秀な師匠の下で修行をすればその伯も高い。
いわばババの元で修行を積み一人前の術者となればそれだけで優秀な術者としてその地位を約束されるのだ。
だから毎年春、弟子を迎え入れるこの時期にババの元には多くの子供達が両親に連れられてやって来るのだった。皆、わが子の秘められた可能性を信じて。
弟子達に指示をされてそれぞれの得意な力を披露していく子供達。
その様子を木の陰から見つめる青い瞳が在った。
不安そうに口元に手を添えて試験を伺う小さな尻をパシッと叩かれてその子供は慌てて振り返った。
「隠れてないで試験受けに行くぞ」
にかっと笑う黒髪の少年に涙目で首を横に振る青い瞳の少年。
「僕には無理だよ」
銀色に青みがかった不思議な色の髪を肩まで伸ばした白い肌の子供…少年はくりくりとした青い眼でじっと見つめてきた。
少女と言っても違和感の無い整った顔にじっと見つめられて思わず顔を赤くする黒髪の少年は対称的に健康的な小麦色の肌をしてくりくりの黒い眼は太陽の光のせいかキラキラと輝いていた。
「絶対にタイトなら大丈夫だ。俺のオヤジだって言ったろう?」
タイトと呼ばれた少年は不安げに相手を見上げる。
「でもザード。僕怖いよ」
ザードと呼ばれた黒髪の少年はぐりぐりとタイトの長い髪を撫でた。
「俺が一緒だから大丈夫だろ?」
満面の笑みで告げられてタイトの表情が明るく変わる。
「タイトが一人前の術者になったらタイトのじいちゃんもばあちゃんも安心する。二人の為にもババの所で
修行しないといけないんだ」
ザードの言葉にタイトは思い出したように頷いた。
不安でいっぱいだったタイトの表情が明るくなりザードも安心した。
「行こう。母さんが待ってる」
手を繋ぎ二人は入学試験を受けるために並ぶ人の列に向かって走り出した。
個人での得意な力を評価した後はそれぞれに合った次の試験が用意されている。
手を使わずに物を移動させたり言葉を使わずに動物達に決められた行動をさせたりなどだ。
ババは必死に試験に取り組む子供達を用意されたイスに座って眺めていた。
毎年たくさんの子供達が試験を受けに来るがその中で試験を合格して残る子供達は少なくさらに一人前の術者として育つ子供はほとんど居なかった。
近年、術者としての素質を持つ人間が減ってきていることにババを始め他の弟子を取る術者達も気付いていた。
世界は徐々に変わり始めているのかもしれない。
人々が自然に宿る力を忘れて己が力のみで道を切り開き生きていこうとする意志が育ってきているせいなのか?
決して悪い傾向ではないがそのことで自然がないがしろにされ彼らの怒りの声を聞かずに滅びるのが世界に残された謎の多い古代文明の遺跡から読み取れる人間の文明の終りであった。
ふと受付に現れた見慣れた女に気付く。
昨日村で話しかけてきたキイナだ。彼女も以前はババの元で修行をしていた子供であった。
残念ながら一人前の術者にはなれなかったが修行をしながらババの元で学んだ薬学を活かし今では村には無くてならない薬師として生活をしている。
同じ村に住む幼馴染と結婚をし三人の子共に恵まれたと聞いていた。
上二人の娘達に力はなかったようで修行を受けさせようとはしなかったが末の息子だけは特異体質のようでぜひババに見てもらいたいと相談を受けていたのを思い出した。
はつらつとした顔つきの子供にババは父親によく似ている、と思った。
その子供の隣には対称的に少女と見間違えるような少年が居た。
遠目で彼が少年だと分かるのは着ている服がスカートではなかったから。
二人の子供の肩に手を置いて話しかけるキイナにババは息子は一人だと聞いていたが?と疑問に思ったが次の瞬間、ババは激しい衝撃を体に感じた気がした。
木々がざわめき満開の花が強い風に吹かれて一気に花びらを散らす。
突然の突風に弟子達が慌てて駆け寄り口々に声を掛けてくる。
「ババ様。大丈夫ですか?」
眼を見開くババの手は震えていた。
「ババ様?ババ様!」
受付に居たザードとタイトがババに気付いた。
じっと見つめてくるその四つの瞳からババは眼をそらせなかった。
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