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花の香りがする。 腐った花のにおい。 俺の大嫌いなにおい。 ぼやけていく視界に心地よく身を委ねた。 そいつはクズみたいなやつで。 浮気ばっかするし、記念日は忘れるし。 すっぽかしばっか。 ほんとクズの底辺。 「っあん! やだ、そこ! 」 「すきだろ? 」 家に入ると今日の朝まで一緒に寝ていたベッドでセックスしてるクズと相手。 相手の子は恥ずかしそうにしていたが、こいつはニタニタ笑って気色わるい。 「なんだ、帰ってきたのか? おかえり」 「邪魔した、しばらく時間潰してるわ」 「あぁ? どこいくんだよ」 そう言って相手の子をベッドから落として俺に手を伸ばした。それを避け、怒鳴るクズを無視して鞄を持って外に出ていった。 あんなことしょっちゅうだし、一昨年から毎年誕生日は俺に見せつけるが如くセックスしてる。 よくあるだろ? 自分の誕生日を忘れられて、浮気されて悲しんで出てってその先で何からかの形で死んでいく主人公とか。 俺の運が良いのか、事故とかにはあってないし。 怪我もない。あぁでも。 俺は鞄からファイリングされた書類を出す。 「悪性……手術同意書……。」 会社の健康診断でひっかかって。検査したら悪性腫瘍がある、手術は難しいがやることもできる、手術しない場合は余命が───。 なんて。ドラマかよって思うわけ。 でもこれは現実なわけで。 「はぁ───」 ため息が白く空気を染めた。近場の自販機でホットレモンでも飲もうと立ち上がる。 「あ」 「あ、……さっきの」 自販機の前には先客がいてそいつはさっきベッドにいたあの子。 「あの……お話を少し、させてもらってもいいでしょうか」 「え……あ、あぁうん。じゃあ、あそこのベンチで」 アイツに抱かれていたこの子。 この子は幼い頃から持病を持っていて、医療薬品会社勤務のアイツと出会ったのは病院の中庭だそう。 何度も会ううちに、アイツの事を好きになり先日告白をしたのだという。……まぁ、アイツ顔だけは良いからな顔だけは。 俺がいるってことも、なにも知らないでうちに来て。そういう流れになって、その間に俺が来たのだという。 「ほんとうに、ごめんなさい! 」 「いいよ、君が謝らなくても。アイツ、色んなやつに手だしてんの。そもそも俺が本命なのかもわからない。はは……」 「…………。それ、」 「あぁ、うん。ちょっとね。引っ掛かっちゃってさ」 「どこが、悪いんですか……? 」 ここだよと頭を人差し指で叩くと、悲しそうに目を伏せたこの子に気にしないでと頭を撫でた。 「お互い爆弾かかえてるんだな」 「……僕、先が長くないんです。最後の思い出にって彼と、、あぁ!すみません。あの……お詫びと言ったらあれですけど……」 「お詫び? いらないよそんなも───」 「僕が死んだら僕のこれ、あげます」 「えぇ? 縁起でもないことを、、なら俺のもあげるよ。先に俺が死んだら俺のここ、あげる」 そう言って自分の胸をとんとんと二回叩いて二人で笑った。 ───────────── 会社は辞めた。アイツには会社の旅行で家を空けると伝え手術を受けることにした。あれからあの子とは一度もあっていない。 「っふぅ──」 「動きますよー? 」 「あぁ、すみません。少しだけ待ってください」 最後かもしれないな。この空も。 一分ほど見て、待たせてしまった看護婦さんに謝った。 「大丈夫です。 成功しますよ」 「あぁ、看護婦さん。これ荷物取りに来るやつに渡しといてくれませんか? 俺、目覚め悪いかもしれないので」 「……はい。」 享年26歳 14:56分 end.
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