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「冗談だよ?さっきの」
子どもがするように言い訳をして、反対の手を良吾の掌に滑り込ませた。彼はまだ黙ったままで、それでも、重ねた手から体温が伝わってくる。
布団を捲ると、今度はすんなりと顔を見せた。
「なんで隠れてんの?怒った?」
「ん?別に怒ってない」
「じゃあなんで?」
「雨の日はナーバスなんだよ、歳だからな」
嫌味っぽく言うのがなんだか可笑しくて、英介は肩を揺らした。
「布団の中で泣いた?」
「お前なぁ」
呆れた声でも愛されているように感じるのは、自惚れが過ぎるだろうか。
暖かい手が、半袖から伸びた腕を擦る。くすぐったさに首を竦めると、前髪をかきあげるように頭を撫でられた。
「……可愛いなぁ、お前」
「っ……」
思わず溢れたという言い方に、キュッと喉が詰まる。優しい目を見ていられなくて、枕に顔を埋めた。平気でこういう事を言う男だと、分かっていたのに。不覚だった。
良吾の、からかいを含んだ声が降ってくる。
「どうした?耳、赤いぞ」
「……ズルい」
「英介も、素直になってみるか?」
まぁ無理だろうけど、と付け加えた良吾は、見えなくても笑っているのが分かる。
英介は枕から片目を上げると、頭を撫で続ける手を取って、そっと唇を押し当てた。
「あ…りがと、う」
「っ、いや…」
次の瞬間、英介精一杯の素直さは、良吾の笑い声で吹き飛んだ。
「そこは、“愛してる”だろ」
「あいっ?!…無理!」
掴んでいた手に、頬を摘まれる。顔を振って逃げると、腰に回った腕に強い力で引き寄せられた。
「けど、手にキスってのは良いなぁ。コッチにしてくれても良いけど?」
「……バカじゃないの」
近づいてくる顔を手で抑えると、手首を捕えられる。
「じゃ、俺から」
英介の腕を取って首に回させながら、良吾がそっと唇にキスをする。
遠くで雷が鳴った。2人は鼻を合わせて笑い合い、もう一度眠ろうと布団に潜り込んだ。
(おわり)
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