出会い

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「静かにしろー」 そんな言い方で静かになるかよ、と思いながら、目だけで教室を見渡す。髪が茶色いのや隠す気のないメイク顔は、若さに任せて生きている、という感じがする。 (にしても、1人飛び抜けてるのがいるなぁ) 明るい金髪に、剣呑な目付き。ガタイは良くないが、高校生とは思えない雰囲気がある。周りの席の生徒は、さぞ居心地が悪いだろう。 「というわけで、田口先生は腰痛で休みだ。しばらくの間、こちらの浅生先生が代理でいらっしゃる」 軽く頭を下げると、コソコソとしたやり取りがあちこちで起こり、久しぶりに転校生の気分を味わった。 「じゃあ先生、後は…」 「あ、はい。どうも」 喧しい音を立てて副担任が出ていくと、教室は目新しい者への期待と興奮を含んで、息苦しい静けさに包まれる。 「あー、とりあえず出欠でもとるか」 教室を見回すと、目線をやった先から目を逸らされる。そうかと思えば、常に視線を感じていて、なんとなく教師と目を合わせたくない、という心理は、世代が変わっても同じらしい。 「先生の自己紹介は?」 どこからか声が上がり、そう言えば副担任から「ホームルームは軽く自己紹介でも」と言われていたのを思い出した。 「あぁ、そうだった。今日からこのクラスの担当になった、浅生良吾だ。田口先生が戻られるまでの間だが、宜しく」 「宜しくお願いします」というボソボソした声がそこここから聞こえ、今どきの高校生はこんな感じか、と心の中で息をついた。 塾講師をしていた時も学生を相手にしていたが、中心は小・中学生だったし、そもそも塾に来るような子どもは、ある程度“お行儀の良い”子どもが多い。 「じゃあ1番、安達ジュン」 「はい」 名簿の通りに名前を呼んでいくが、40人弱もいる生徒の名前と顔を一致させるのは、なかなか至難の業だ。なにより、名前を呼ぶだけでは尺が稼げず、自己紹介でもさせれば良かったかと後悔する。 「次は、藤枝…」 「はい!みんなのアイドル藤枝謙信、17歳です!」 名前を呼ばれた生徒が勢い良く立ち上がり、そのセリフに教室がドっと沸いた。 改めて顔を見ると、何故か実家にいる、人懐っこい柴犬を思い出した。 「藤枝か、宜しくな。じゃあ次、えー」 「え、待って!それだけ?!」 「それだけ、って…あー、元気が良いのは、良い事だな」 「うん!て小学生か!」 思わず、ふっと笑みが漏れる。高校生と言うにはあまり擦れていない感じだが、彼のおかげで教室の雰囲気が幾分和らいだ。 「藤代ユウター」 「はい」 「ちょ、マジで?!」
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