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べろりと舌の這う感触は、下着越しにも明確に伝わり、藤枝は思わず栄川の肩を掴んだ。
顔に垂れた長い前髪の影で、口角が上がっているのに気づく。
「せんせ、あっ……なんで、こんな…」
「ん、性教育?」
「あんた数学教師、っ?!待って、それはホントっ、ホント洒落になんない、って、ひぁ」
「いいな、その声が聞きたかった」
あれよあれよという間に取り出され、先端に唇が触れる。
その瞬間に、甘く痺れるような電流が、下腹部を襲った。目の前がぼやけ、自分の身に起きている何もかもを、直視していられなくなる。
「や、ば……あっ、うぅ」
自身と栄川の指を濡らすのが、最早唾液だけでは無いことに、藤枝は気付いていた。手淫が施されるたび、湿った下着の履き口が裏筋を擦る。
無視できないほどの水音がたつのは、エロ本の中だけだと思っていたのに。
「っあ!あーダメ、俺、ホントだめ」
「何がダメ?」
もう、自分に触れているのが、栄川の指なのか、舌なのか分からない。身体全体が、熱に浮かされたように脈打っている。
藤枝は、栄川に与えられる快感と自分の鼓動で、頭の中がいっぱいになっていた。
「こ、え……」
「ん?」
「ぶんちゃ、の声……なんかぞわって……」
視界を遮断されているからか、先程から栄川が喋る度に、藤枝の身体は、与えられる以上の反応を示していた。
片足はマットに投げ出され、栄川を押さえる手も力を失っている。
「ん……な、に」
藤枝は荒い息をつきながら、不意に、体温が近付くのを感じた。耳元に、熱い吐息がかかる。
「……イく?」
「っ?!ンうあっ!」
耳許に囁かれた瞬間、下腹部が激しく痙攣した。閉じている目の裏が、チカチカと明滅する。
「な、に……今の…」
「ごめん、新しい扉開けちゃったかも」
「は、はぁ?」
惚けた様子の藤枝の頬に、栄川は軽くキスをすると、今までの所業が嘘のようにあっさりと身を引いた。
「本当はもっと別の方法で味見しようと思ってたけど、今日はこのくらいにしとこうかな」
「え、は?え??何が?」
藤枝の混乱をよそに、栄川はさっさと身なりを整えると、立ち上がって白衣の裾を払った。
いつもの女子を魅了する笑顔で、藤枝を見下ろす。
「結構良かったよ、予想以上にね」
「はぁ、さいですか……」
考えることをやめた藤枝に、栄川は「またね」と言って部屋を出ていった。建付けの悪い扉が、喧しい音を立てて閉まる。
「え、なにこれ……?てかまたって何?!」
誰もいなくなった準備室に、藤枝の掠れた声が響いた。
(おわり)
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