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人間の考えてる事なんて、顔を見ればすぐに分かる。性欲や支配欲、被虐的で加虐的な妄想。満たされない欲望が、ずた袋の中を渦巻いている。 天井から吊り下げられた、一対の赤い布。その滑らかなリボンに、脚を絡ませる。肌を隠す気のないコスチュームに、熱い視線が絡みつく。 リボンを伝って滑り落ち、宙に身を踊らせる。強すぎるスポットライトが、チリチリと人間の皮膚を焼く。 こうして、わざわざ不自由な身を晒しているのは、もちろん人間の為ではない。 ホール奥、1番後ろの席にいる、1匹の悪魔。 『まだ続ける?』 耳の奥で声がする。脳みそを掻き回されるような、抗い難い声音。 それでも止めない。艶めかしく腰をくねらせ、何も無い空間へ四肢を跳ねあげる。 そこへ、一人の男が立ち上がった。地獄の知り合いに、確かあんな格好のやつがいる。赤ら顔で、ジョッキを高らかに叫ぶ。 「いいぞぉ!お嬢ちゃ」 男を中心に、周囲の動きが止まった。 想像してみると良い。楽しい舞台の鑑賞中に、突然赤いペンキをぶちまけられたら。 ぽたぽたと赤い雫が床を叩いた後、芋の袋を落としたような、柔らかく鈍い音が不気味に響いた。 一瞬遅れてやってくる、悲鳴の波。 血の噴き出すようなBGMを聴きながら、さらに激しく踊る。先程まで流れていた、劣情を煽る音楽よりも、よほど心が満たされた。 出口へ殺到する群れを、幾本もの赤いリボンが貫く。 最後の悲鳴が止んだと同時に、踊るのを止めた。舞台に足を着けて、胸を高鳴らせる。 真紅の絨毯を、黒い悪魔が進んでくる。硬い靴と、跳ねる液体の音。 「どうして、良い子にしてられないんだろうね」 すぐ目の前に現れた悪魔は、そう言って黒い目を眇めた。冷たい手が伸ばされ、自ら頬を寄せる。 その手に首を切り裂かれて、自分の頭が落ちるところを想像する。床を転がるそれを、彼は拾い上げてキスするだろうか。それとも踏みつけて、ここを出て行くのか。 「興奮した?」 リボンの絡んだ腕を、彼の首に回す。近くから黒い目を覗き込んで、血のついた頬を舌で舐めあげると、優しく腰を抱き寄せられた。スポットライトに照らされて、2つの身体が密着する。 「すごく、良かったよ」 柔らかな口付けが、徐々に熱を帯びる。歯列をなぞる舌に、自分のものを絡ませる。 背中に手を回され、顎を上げてキスに応えていると、まるでラブロマンスを見ているような気分になる。 でも、これは人間の夢物語じゃない。相手は、掌で命を弄ぶ悪魔。そして自分は、その瞳に捕えられている。 「まぁ、ムカつかない訳では無いけどね」 暗闇へもう一歩、足を踏み入れる。
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