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急ぎの仕事をした帰り、突然の豪雨に見舞われ、道路沿いの安モーテルに泊まることになった。
受付は無愛想な男で、コートからぽたぽたと雫を垂らすリョーゴを、値踏みするような目で見た。外で待たせているもう1人が、男だというのも気に食わない理由のひとつだろうか。
最低限の会話も面倒になり、リョーゴは黙って多めの金額を台に放った。
鍵を受け取って外に出ると、荷物を持って待っていたラグウェルが、慌てて傘を差し掛ける。
「リョーゴ、濡れちゃう」
「……あぁ」
心配そうについてくるラグウェルを気にする余裕もなく、自分達の部屋を探してのそのそと歩いた。
雨が靴の中にまで染み込んで、歩く度にズブズブと音を立てる。
「……わぉ」
鍵を開けて部屋に入ると、なんとも言えないほこり臭さがまとわりついてきた。
ワンルームにパイプベッドが2つ、小さな流し台、点くのか怪しいテレビ1台。奥の方にトイレとバスが見える。
お世辞にも綺麗とは言えないが、今は雨をしのげれば十分だった。
「すごい雨。今日降るなんて言ってなかったのに」
荷物を置いたラグウェルが、流しの上にある小さな窓から、叩きつける雨を眺めて呟く。
リョーゴはトイレに続くドアを開けると、洗面台で着ていた服を絞った。
「……このくらいなら大丈夫か」
四隅の錆び付いた鏡に腰骨の辺りを映すと、拳大の酷い火傷があって皮膚が赤く爛れている。フェイスタオルを細く割いて傷口に当て、上から隠れるようにバスタオルを巻く。一瞬鋭い痛みが走り、奥歯を食い締めた。
悪魔祓いの仕事は、どれだけ回数を重ねても慣れることがない。悪魔に対峙する恐怖や負わされる痛みも、辛うじて耐えられるというだけの事だ。心が蝕まれていくのを感じる。
「リョーゴ」
「……今行く」
呼ばれて部屋に戻ると、ラグウェルが大きな紙袋を抱えて立っていた。いつの間に、どこかで買い物でもしてきたようだ。この雨の中を外に出たというのに、服はおろか髪も肌も濡れていない。
リョーゴがスリッパに足を入れてベッドに腰を下ろすまでの間に、ラグウェルは紙袋の中から買ったものを取り出して、1つずつ机に並べた。一人分の着替えに、軽食の入った紙パック、チョコレートバー、その他入用な物がいくつか。
「何か食べる?」
「……水、あるか」
「うん」
ペットボトルを渡され、数口飲んで喉を潤す。冷たい水が身体に流れると、少し気分が良くなった。
そのままベッドに上がり、シーツも剥がさずに横になる。重い身体が、マットレスに沈んでいく気がする。
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