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控えめに扉をノックして、そっと中に入る。会いたかった人は、ベッドの上に身体を起こしていた。
窓から入り込む柔らかな風に、髪がフワリと揺れる。
「マヤ」
「来たんだ」
「おぅ、マヤに似てないかどうか見に来た」
「そんなこと言って、抱っこさせてあげないわよ」
会話をしながら、扉の前でもだもだしていると、早くこいと手招きされる。
ベッドの横には、もう1つ小さなベッドが並んでいた。中には2人の赤ん坊が、ピンクとブルーのベビーウェアに、包まれるようにして眠っている。
「かわいいでしょ、双子ちゃんなの」
「名前は?」
「まだ、これから」
そっと触れた小さな身体は、確かに暖かくて、うっかり泣きそうになった。
暫くぶりに見た姉の横顔は疲れているように見えたが、それよりも強く、何かに挑むような顔でもあった。
「なんか、母親の顔になってるな」
「そりゃそうよ。これから、この子達と生きていかなくちゃ」
「……幸せなんだな」
「そりゃそうよ~」
途端に旦那の惚気を始める姉に、わざと呆れた視線を投げる。
両親を亡くし、頼れるのはお互いだけだった。楽な暮らしをしてきたとは言えない。
幸せになってくれて、本当に良かったと思う。
「あんたはどうなの?車好きなのは分かるけど、ちゃんと休まないと」
「まぁ、ボチボチな」
「ほんと仕事大好きなんだから」
誰に似たのかしら、と溜息をつかれ、そっと目をそらす。家族に秘密があると、こんなにも居心地の悪いものなのか。
「なんか…買ってこようか、飲み物とか」
「そうね、ありがとう」
部屋を出て、入口近くにあったベンディングマシーンを探す。
あからさまに話題を変えたことに、マヤは何も言わなかった。隠し事をしているのはバレているだろうが、その中身までは知らないはずだ。知ったところで、信じるのは難しいだろう。
「お、あったあった。小銭が、確かポッケに」
ポケットを探ると、車のキー、バーガー屋のレシート、携帯番号のメモなどが出てくる。無理やり手を引き抜くと、高い音を立てて小銭が散らばった。
「参ったな」
しゃがみこんで落ちたものを拾い集めると、中に1枚の羽根が混ざっている。羽の形はカラスのようだが、その色は黒ではなく白だった。
珍しい鳥もいるものだと思い、買った水と共に手に持って来た道を戻る。
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