I Scream

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 家から歩いて数分の国道沿い、そこに床屋はあった。目印は床屋や美容院で使うようなカット用のハサミ(シザー)の看板である。大きさは百五十センチ程の大きなもので、電柱程の高さの支柱にぶら下げられている。この北風の強さ故にゆーらゆーらと揺れている。ハサミの看板は指穴(リング)にボルトが固定されて電柱の高さ程の支柱に繋げられている。この看板、一目で床屋だと分かることから馴染みの客が新規の客を紹介するときのいい目印となっている。店の前で絶えず回るサインポールより仕事をしていると言っても良いぐらいである。 「千円カットに駆逐されたと思ったのにまだあるんだ」 少年はこう呟きながら料金表の貼られた床屋の重いガラス戸を開けた。その瞬間に床屋独特のスーッとする匂いが鼻腔の中に入る。 千円カットでは使わないヘアトニックの匂いに少年は懐かしさを感じた。千円カットたるものが世に出る前には似たような床屋に通っていたので、その匂いを思い出したのだった。 「いらっしゃいませ」 家族で経営しているのか顔のよく似た男二人が先客の散髪を行っている。マッサージチェアを思わせるバーバー椅子は四脚あるのに、使用されているのは二脚。家族で理容師の資格を持っているのは今散髪をしている二人しかいないのだろう。 「席に座って暫くお待ち下さい」 少年は促されるままに待機用のソファーに座った。目の前にあるマガジンラックには数ヶ月前のゴシップ系週刊誌や実話系の雑誌が立て掛けられている。 少年は興味が無いので漫画を手にとった。 床屋の待ち時間の暇潰しに読む漫画は一話完結のレギュラー作品が選ばれやすい。ゴルゴ13やドラえもんやこちら葛飾区亀有公園前派出所などがそれにあたる。長編のストーリー作品を読んでいる最中に呼び出されたら先が気になって仕方ないだろう。 だが「単なる暇潰しなんだから何でも良いだろう」と、して適当にまとめ買いをした長編のストーリー作品を選ぶ床屋は多い。北斗の拳やはじめの一歩やお~い!!竜馬などがそれにあたる。 この床屋は後者だった。北斗の拳が全巻置かれていたのである。少年は名前だけは知っているけど読んだことがなかったので、手にとったのだった。 少年は待ち時間の間に一巻を読み終え、二巻を手に取ろうとした瞬間に先程まで使用中だった椅子の客の散髪が終了し、椅子周りの掃き掃除も終わり、呼び出された。
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