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「お客さん、どうぞ」
これからケンシロウはどうやってシンを倒すのだろうか。ハートとか言うデブが「ひでぶっ!」って死ぬところで俺の北斗の拳は終わってしまった……
一番気になるところで呼び出しやがって。続きが気になるなぁ…… 少年は後ろ髪を引かれる思いでバーバー椅子に腰を下ろした。
「お客さん、本日はどうしますか」
「全体的に梳いて下さい」
「でも、まだ全体的に短いですよね。これ以上梳くと薄くなりますけど」
「大丈夫ですよ」
少年は床屋との無用な会話を鬱陶しく感じていた。幼少期に通っていた時も「どこの学校?」「学年は?」「どこかに出かけるの?」と、質問攻めに遭うのが嫌で嫌でたまらないのであった。挙げ句の果てにはバーバー椅子の高さをペダル操作で上げるだけで「超能力~」と、宣う床屋に付き合わされ、心底床屋に嫌気が差しているのであった。
少年はこれ以上会話に付き合う義理は無いとして、投げやりそうに返事を返した。
「梳いてくれればいいんで」
少年はそのまま目を閉じ寝に入った。後は目を覚ませば、仕事は終わっているはず。
ちょき
ちょき
ちょき
ハサミの軽快な音が少年の耳に入る。寝に入っていても耳だけは機能しているのか、少年は微睡みの中ハサミの音を聞いていた。
床屋は千円カットと違い時間に制限が無いのか、カットだけでも数十分は使う。カットが終わったところで床屋は少年に声をかけた。
「あの、カットは終わりましたが。顔剃りとシャンプーどうしますか?」
少年は微睡みの意識の中でガラス戸を開ける前に見た料金表のことを思い出していた。
大人、1800円
少年(中学)、1400円
カットのみ、1200円
そして、母親が出かけしなに言ったことも同時に思い出す。
「仕方ないわね。たまにはシャンプーや眉毛剃りとかフルサービスで受けてきなさい。少し歩くけど国道沿いに床屋さんあるから行ってきなさい。おつりは上げるわ、どうせジュースぐらいしか買えないでしょ」
この口ぶりから言って母親は大人料金で散髪をしてくると思い込んでいるに違いない。いつも美容院に行っている母親は床屋の料金体系を知らないのであった。「これ、もっと多くお釣り貰ってもバレない?」少年の心に悪魔の声が優しく囁きかける。
このまま顔剃りもシャンプーもなしで帰れば1200円。母親から貰ったお金は2000円。これなら800円お釣りがでる。少年は小狡くも、800円の着服を考えたのだった。しかしシャンプーはともかく、無精髭を生やして眉毛も整えてないとなると着服がバレるのは自明の理、正直に料金を話せばお釣りを返せと言われかねない。せっかくなのでフルサービスを受けることにした。フルサービスでも600円の着服、少し豪勢なおやつを買うには十分な額であった。
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