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番外編:侍従のお悩み
「何をそんな必死に書きつけているんだ」
唐突に声をかけてきたのが紅玉だと気付いて、翡翠はほっとした顔になった。廊下で立ち止まり、思いついたものを書き留めていたので、さすがに不審だったかもしれない。相手が紅玉なら話してもいいかと、翡翠は照れ笑いした。
「要の好きな食べ物をまとめていたんだ。年越えのお祝い用に料理長と相談しようと思って」
「へえ。……抜けているのが幾つかあるな」
え、と翡翠が慌てていると、紅玉がどんどん食べ物を挙げていく。それを必死に書き留めてから、翡翠は首を傾げた。
「なあ、これってさあ。俺の好きなものばっかりみたいだ」
「偶然じゃないのか」
そうかなあ、と翡翠が首を捻っていると「嘘だと思うなら要に尋ねてみろ」とまで紅玉に言われる。
「そっか……要と好きな食べ物が一緒って得した気分って言ったら怒られるかな」
祝いの席では翡翠も食事を口にできる。
小声で、でもちょっとワクワクしながら紅玉に返すと、男は目を細めて笑い返してきた。
「翡翠はとても美味しそうに食べるからな。料理長どころか、要だって喜ばしく思うさ」
「……要の好物の話、だよね?」
どうだったかなと紅玉は嘯く。翡翠の髪に軽く触れてさっさと行ってしまった。
顔を赤くしながら要のところに戻った翡翠はしかし、紅玉の言った通りの答えが要から返ってきてーー年越えの祝いの席では、好物を密かに満喫したのだった。
(おわり)
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