第一章・―異世界の治安は果たして良いのか―

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 そう言ってから、ゆっくりとした動作で扉をノックする。 「……誰だ」  程なくして、中から聞こえたのは、ゲーム内で聴いていたよりもっと威厳がある、重苦しい声だった。 「マオウ様に、逢いたいという者が」 「……来客だと? 珍しいな」 「はい。必ずマオウ様の、野望達成への助けとなる者かと」  かなり無茶振りなんだが、あんなやり取りだけでそこまで読み切ってくれるとか、マオウの右腕、恐るべし……。 「良いだろう。入れ」 「は。畏まりました」  許可を得てようやくの事で、マオウが待つ室内へと足を運ぶ。  こちらに背中を向けているが、本当にゲーム内で言っていた通り、彼はリザードマンのようだ。  シルエットだけで理解る。  しかも、これまで目茶苦茶修羅場を潜ってきたのか、身体中傷痕だらけで、不覚にも格好良いと率直に思ってしまった。 「失礼します」  俺の声に反応して、ゆっくりとリザードマンが振り向く。 「よくきたな、ユウシャよ」 「俺がくる事は、予想済みなのか?」 「私は、最早全て超越した身。分からない事など、ないのだよ」  成る程。  納得。  なら話は早い。そこまで理解しているなら、俺が言いたい事も、全部知れているだろうから、まだるっこしい説明はこの際省くぞ。
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