終わり

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誘われたご飯の時間まで1時間くらいある。 でも克也のお父さんの書斎でダラダラ出来無いので克也の部屋に移動した。 今までだったら1時間という時間があればイチャイチャしたり事に及んでいたのに今日は何もしないみたいだ。 もしかしたら、と期待していた自分が恥ずかしい。 そんな裕也を膝に乗せて克也は何かを考えるように珍しくボーと遠くを見ている。 そんな克也に自分から仕掛ける気にもなれなくて大人しく克也の首元に顔を埋める。 「それにしても克也のお父さんは本当に優しいなぁ」 「そんな事言うのは世界中で母さんか裕也だけだろうな。俺と海斗も優しいと思ったことはない」 心の中で呟いたつもりがしっかりと口に出ていたらしくボーとしていた克也が返事をしてくれる。 「期待してるからじゃない?」 克也と海斗に厳しいのは厳しい状況でも倒れないようにだとお父さんとの会話や態度などから裕也はそう思った。 須藤家のトップは裕也なんかでは想像も出来ない事が色々とあるだろう。 そしてそれは裕也に言われるでもなく父親の背中を一番近くで見ていた克也が誰よりも理解しているはずだ。 「そうだな。もう少し母さんに分ける優しさを俺にも、と思っていた時期があったけど今はもう目標でもありライバルでもあるからな。ライバルと思っているのは俺だけだろうけど」 少しだけ照れたように話すのも誰かに負けていると口に出す克也は珍しい。 克也にとって父親はそれほど大きな存在なのだろう。 それが微笑ましいと思うと同時に羨ましくもある。 裕也には遠い遠い話であり、ずっと何処かで望んでいた事だからだ。 「俺と結婚するんだから裕也の父親にもなるな」 自分から聞いておいて羨ましそうにするのはダメだと隠したつもりだったのに克也にはしっかりバレていた。 「そうかなぁ」 それはとんでも無く幸せなことだろうなと何処か他人事のように考える。 克也の家族と前に囲んだ食卓を思い出す。 冗談を言い合って笑い合って美味しい物を共有して。 初めての事ばかりでとても楽しかった。 そしてそれは裕也の家がどれだけおかしかったのかを裕也に知らしめた。 こんな過去の事ばかりぐちぐちと考えている自分が嫌だ。 あの男に会って過去に決別しようと決めているのに裕也の中にあった憧れが邪魔をする。 過去と向き合うってこんなにも辛いものなんだ。 克也に巻き付けていた手に力が入ったことで裕也の緊張が克也にも伝わる。 今からこんなんで本当に大丈夫だろうか。 克也も裕也に負けじと強い力で抱きしめる。 「落ち着いたら旅行に行こう、海外でもいい。ゆっくり温泉に浸かるのもいいな。美味しい物をいっぱい食べて美しいものを見て遊んで寝る。どうだ?考えただけで楽しそうだろう」 克也がご飯にも景色にも遊ぶことにもそれほど興味がないのを知っている。 その優しさが胸をホワっと温かくした。 「そうだね。計画を立てるだけで楽しそうだ」 裕也が笑みを零すと克也はホッと息をついた。
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