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「なんで裕也くんも泣きそうになってんの…」
目を真っ赤にしながら困ったような顔で笑う由衣に胸が痛くなり、自分が泣くのはおかしいと分かっているのに涙が出そうになる。
「ごめん、なにも、力になれなくてごめん」
「何言ってんの!こうして聞いて貰ってるだけでめちゃくちゃ救われてるんだからね!!」
強くて可愛くて綺麗で、優しい。
これだけ辛い事があっても笑う由衣が、誰かの腕の中で涙を流すことが出来るようになるんだろうか。
自分がその誰かになりたいけれど、こうして由衣の話しを聞いているのに逆に励まされている時点でそんな器はない。
「冷めちゃったね…」
気を遣ってか、静かに置かれたそのオムライスに気づいていたが流石にあの話しの途中で食べる気にはならなかった。
半熟のトロトロ卵が売りのはずのそれはもう固まってて由衣のカルボナーラに関してはもう麺がくっついていた。
二人とも自分の料理に目を落とし、写真で見たそれとの余りの違いに顔を上げ目を合わせる。
「プフッ、あんなに美味しそうだったのに!!」
由衣が笑い出して裕也も釣られて笑う。
「話し終わってから頼めばよかった!」
そうやって二人で笑っているとソッとおじいちゃんマスターが近づいてきたので慌てて笑いを止める。
「お話も終わったようですし、作り直しますよ」
柔らかな仏のように笑うマスターが神様に見えたけれどせっかく作って貰ったのに作り直してもらうのは申し訳なさすぎるので温め直しだけお願いできるか聞いてみる。
「もちろん出来ますが…出来れば一番美味しい状態で食べてほしいので作りますよ」
「いやいや!また次来た時の楽しみにしています」
おじいちゃんマスターはそうですか、なら諦めますと笑い温め直してくれた。
「美味しい!!!!」
一度冷めたものを電子レンジでチンすればいくらか味は落ちてしまいそうなのにオムライスはほっぺが落ちそうなくらい美味しかった。
由衣も同じようで口いっぱいに詰めるからリスのようになっていてそれを見ておじいちゃんマスターと目を合わせて笑った。
こんなに美味しいのならやっぱり出来たてを食べてみたい。
「由衣くん、また一緒に来よう!」
まだほっぺを大きくしている由衣はそのままコクコクと頷く。
「っ、初めて裕也くんから誘ってくれたね!」
「そうだっけ?」
そういえばそうかもしれない。
克也が裕也を一人で学校外に出るのを嫌がるのであまり出ないし、由衣も克也も実家の手伝いで忙しいのは分かっているので裕也から誘うことは殆どない。
「嬉しいなぁ。僕、こんなに話せる友達初めて!」
「僕もそうだよ」
「克也とか暁人はやっぱり家の事とかあるから話せなかったし、裕也くんは聞き上手だからついつい話しちゃうんだよ」
由衣は友達が多いので自分もその中の一人だと思っていたのに克也や暁人さんよりも特別だと言われて顔がニヤける。
「僕も嬉しい。由衣くんと友達になれて本当によかった」
由衣が出会った中で一番の笑顔で笑うので何故だかまた泣きそうになった。
愛している人がいて大好きな友達が出来て美味しいものを食べながら笑い合う。
人生で一番今が幸せだ。
克也と出会ってから毎日毎日幸せが更新されていく。
いつまでもいつまでもこんな日が続けばいい。
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