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時間がない。
のんびり考えている暇はないのだ。
一回きり、失敗したら終わりだ。
深く息を吐く。
「いた!!変な男に連れ去られそうになってる」
適当な方向を指差して二人の護衛に言う。
優秀な彼らは自分が一番に守るべきなのは裕也だと知っているためこの危険な状態で裕也の側を離れそうとはせず、付近を探している護衛に電話をかけようとする。
「一人でいいからいって!僕は大丈夫だから!!」
本当に由衣の姿が見えたのならきっとこんなことをいう暇もなく走り出していただろう。
早く行け、と一人を押すともう一人の護衛と目を合わし頷くと裕也が指をさした方に走って行った。
姿が見えなくなると周りを警戒する余り裕也の方に意識が薄い護衛の肝臓あたりに思いっきり拳を叩き込む。
それなりに強い裕也のパンチが綺麗に決まり護衛の男は崩れ落ちる。
他の三人を呼ばれたら終わりなのでその護衛から通信器具を奪う。
「ごめん。克也にも、謝っといてほしい」
行けば克也と二度と会えないかもしれない。
それでも由衣を見捨てることなんて出来るはずもなく送られてきた場所へ走り出す。
何が目的なんだろうか。
身代金?その可能性は捨てきれないが多分違う。
由衣だけで及川から多額のお金が貰えるのに危険を犯してまで裕也まで呼び出す訳がない。
そうなると須藤グループに恨みがあるか及川グループに恨みがあって由衣の友達の自分も巻き込みたいか、それとも裕也に何かあるかだ。
目的が何であろうと二人とも無事で帰れる可能性なんてないに等しいと思った方がいい。
せめて、由衣だけでも。
助け出さないといけない。
送られてきた場所には如何にもな白のバンが停めてあり警戒しながら近づくとヤクザというよりチンピラのような男が出てきた。
「早く乗れ」
「由衣くんはどこだ!!」
「ククッ、ここにはいねぇよ。会いたきゃ乗れよ。急がねぇと死んじまうぜ?」
キッと目の前の男を睨むがそんなものは全く効かず早く乗れと腕を引っ張られ助手席に座らせられる。
車の中は煙草の匂いが充満していて悪かった気分が更に悪くなる。
「はーい、じゃあ出発すんぜー」
車にはチンピラの男しかいない。
手足も拘束されないことから裕也が逃げないと分かっているのだろう。
由衣が人質なのだ。
どんなに逃げられそうな状況でも逃げることなんて出来ない。
「どこに向かっているんだ」
「教える訳ねぇじゃん」
そりゃそうだ。
そんな親切な誘拐犯はいないだろう。
分かっているが聞かずにはいられない。
これから起こることへの不安と恐怖で身体が震えているのがわかるがそんなことバレたくなくてキッとチンピラを睨む目だけは緩めなかった。
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