決着

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決着

ここには何も無い。 真っ白な部屋にかろうじてあるのは硬いベッドとトイレのみ。 ベッドの上に毛布もシーツもないが一定の温度で部屋の中が保たれているからか寒くなることはない。 布一枚のペラペラな服を着て死なないギリギリの食事をして、ここにきて一体何日になったのだろう。 どうして、どうしてこんなことに。 αとして生まれ名家の跡取りとして厳しく育てられてきた。 頭を下げることもあったがそれよりも自分に頭を下げ、媚びを売ってくるもののほうが圧倒的に多かった。 人から羨ましがられ、必要とされていた。 それがどこから? Ωの女を愛したのが悪かったのか。 嫌がるΩを無理やり番にして裕也を産ませたこと? 番という繋がりだけでは安心できず子供をつくったのにそのせいで番を失ってしまった。 しかも生まれてきたのはΩの子供。 これがαであれば救いもあったのに、 そう、何度考えてもやっぱり裕也が生まれてきたことが俺の人生を狂わせたとしか思えない。 ここでこうして捕まっているのも裕也のせいだ。 全てはアイツが悪いのにどうして俺だけこんな目に遭わなければならないのか。 須藤家がアイツを本気で欲しがっている訳がないと思っていたのに。 なんなら跡取りの目を覚ましてやろうという優しさなのに、どうしてここにいる誰も分かってくれないのか。 憎い。 ここから出たら今度こそ裕也を殺してやる。 「おいっ!聞こえているんだろう!!ここから出してくれたら五百万やろう。だから俺を出せ!早い者勝ちだぞ!」 出入り口の上についてある監視カメラに向かって叫ぶが声が聞こえてくることも、ドアが開くこともない。 「わかった!二倍にして一千万やろう!!」 俺をここから出すだけでそれだけもらえるのだからラッキーにも程がある。 ……やはり応答はない。 どこにあるかもわからない場所から自分で脱出しなければならない。 ここは何のための場所なのか?この部屋のドアさえ出られれば外に逃げられるものなのか、一体誰が監視しているのか、何も分からない。 このままこの何もない部屋にいればいつかきっと気が狂ってしまう。 必死で考ていると、ここにきて一度も開かなかったドアが開いた。 やっぱり。一千万に釣られたやつがいたのだ。 目線を向けた先に立っていたのは190近い身長に広い肩幅、そしてスーツの上からでもわかるほど盛り上がる筋肉。 逃げるのにこれほど頼りになりそうな男はいない。 「おお!よく来たな!早く!見つかる前に早く逃げるぞ」 何日も満足に食べれていないせいで立ち上がるのもしんどい。 壁を掴みなんとか立ち上がりドアの横を通ろうとすると男に首の後ろを掴まれる。 「なっ、何するんだ!離せ!!」 今持っている力を振り絞って手足を振り回すが男はびくともせず、引きずられていく。 足音のしない廊下に今見えるだけで四つの監視カメラ、いくつも並ぶ部屋。 ここは本当になにをする為の場所なんだ。 あの部屋から出ることを望んでいたのになんの反応も無い男とこの異様な空間が不安を掻き立てる。
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