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〔裕也side〕
今日は過去と決着をつけに行く日だ。
あれから何度も何度も話し合って、やっと一人でいくことを克也が許してくれた。
由衣も克也も克也の母も皆んながついていこうか、と聞いてくれたけどこれは一人で向き合うべきことだ。
克也の番になることがなければ僕は一生向き合おうと思えなかった。
母の命を奪って生まれてきた自分は辛くても仕方ないのだ、と諦めてしまっていただろう。
自分のためだけには力が湧いてこないが克也と一緒に歩いて行くためなら頑張れる。
今日のことを考えるだけでここ二、三日は眠ることもご飯を食べることも出来なくなっていた。
少しだけついていた肉もなくなり細くなってしまった身体と真っ青な顔色、目の下のクマから裕也がどれだけ精神的にきているかが分かる。
「身体が傷付けられる事はないと思うが、何かあったらすぐに電話してこい。何を言われても聞き入れる必要はない。俺はここで待ってる」
痛いくらいの力で抱きしめられ、目を閉じる。
大丈夫。大丈夫だ。
だって僕はあの頃と違って一人じゃない。
「愛してる」
生まれて初めて言われた言葉に初めは何を言われたか分からなかったがだんだん頭が追いついてきて目を見開く。
僕も、愛していると口から溢れかけて我慢する。
「うん。行ってくる」
克也から離れがたく繋いだ手がなかなか離れない。
繋いでいた手にもう片方の手を持っていってありったけの力で握る。
離れないように強く。
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