ある三つの視点

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 ここは彼女がずっと訪れたいと願っていた所だ。ここに来るまで色々あった。といっても、わたしと彼女の出会いは実はそれほど長くない。せいぜい数年とちょっとといったところか。それでもこの数年はわたしにとって、とても長い時間だったと思う。  わたしが最初に意識を持ったのは冷たい雨が降るどこかの路地裏だった。ビル群の間に生まれた闇の中はとても暗く、曇天に覆われた空よりも、なお暗く感じさせた。意識を持ったわたしは暗闇の中に潜みながら、雨に濡れた身体を震わせていた。自分がどうしていいか分からず、ぼんやりとビル群の隙間から見える空を眺めていた気がする。  わたしがいた場所は人が多く、それ故に決して多くはなかったが食べることに困ることはあまりなかった。だが人の群れを見るたびに、わたしは一人であるということをいつも認識させられた。  ある時わたしは自分の住処であるビル群の隙間から這い出てみることにした。初めて見る世界はわたしの知っている灰色の世界と違い色味があった。眩しかった。たくさんの人がものすごいスピードで過ぎていった。さまざまな音が響き渡り、空気を大きく震わせていた。それらはどこか非現実なものに見えて、例えるならスクリーンに映し出されたものをただ見ているようなそんな感覚だった。  わたしはその中に混じってみた。だが人々はわたしを避け、または忌避の目を向けてきた。つまるところわたしは人々とは違うのだと気付かされた。 だが、彼女だけは違った。  彼女は俯き歩くわたしを見つけると、そっと抱きしめ、そして自分の住む家へと連れ帰った。彼女の家はわたしが潜んでいた路地裏とそう変わらないほど雑多な物で溢れていた。聞けば彼女はこの街に来たばかりでまだ荷物が片付いていないそうだった。よくわたしの顔を見ては猫の手も借りたいとボヤいていた。
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